渡辺信一郎『中華の成立』(岩波新書)を読む。シリーズ「中国の歴史」の1巻目。この巻は「東アジアの文明が黎明を迎え、多元性が顕在化する過程を書」いている(シリーズ 中国の歴史のねらいより)。
今までの中国史の書き方と異なり、王朝区分で叙述することを重視しない。「はじめに」から引く。
本巻の叙述範囲は、先史時代から8世紀半ばの唐代中期まで、ほぼ3000年である。4000年前の華北農耕社会の形成から長安・洛陽を中核地帯とする隋唐帝国の成立と崩壊のはじまりまでを記述する。その主題は、中国はいかにして中国になったかであり、伝統中国の原型とその特性を歴史的にとらえる試みである。(中略)
そして、「人間社会の歴史にはいくつかの変化の層次がある」と言い、「第一に、政治史のように10年・50年単位で変わっていく層次がある。中国史を例にとれば、項羽と劉邦がしのぎを削った楚漢戦争、曹操・関羽・諸葛亮などの英雄たちが活躍した『三国志』がある」。
「いっぽう500年・千年の単位で観察しなければ変化が見えてこない、衣食住やその生産の層次、換言すれば社会の生活圏の層次がある」。
「政治過程と生活圏の中間には、100年単位で変わっていく政治や社会の組織・制度の層次がある。(中略)中国史の叙述は、いきおい制度史になりがちである」。
「本巻は、そのうち基礎となる社会の生活圏と政治・社会の組織を中心に叙述をすすめる。したがって政治過程で華ばなしく活躍する英雄たちには、やや冷淡にならざるをえない」。
必ずしも英雄たちの活躍を知りたいわけではないが、王朝の変遷を中心に中国史を読みたいと思う私にとっては、いささか読みづらい内容だった。「政治・社会の組織を中心に叙述」がすすめられ、しかし私にとってそれらは専門的に過ぎて必要以上に些末な部分に踏み込んでいる印象だった。
中でとても驚いたエピソードがあった。紀元前260年、中国の戦国時代に秦と趙が戦った長平の戦役では、降伏した趙の兵卒40万人が一挙に穴埋めにされ、総勢45万人が殺されたとある。秦国の兵士もその半ばを失ったという。
ヒトラー、スターリン、トルーマン、毛沢東などが決して突然変異などではなく、残虐さは人間の本質なのではないかと思わされる。