斎藤美奈子『挑発する少女小説』(河出新書)を読む。取り上げられている作品は、『小公女』『若草物語』『ハイジ』『赤毛のアン』『あしながおじさん』『秘密の花園』『大草原の小さな家』『ふたりのロッテ』『長くつ下のピッピ』の9点。すべて名前は知っているがどれも読んだことはない。でも、斎藤美奈子の著書をまだ数冊しか読んでないが、いずれも独特の視点で書かれていて、目からうろこのものばかりだった。不倫の男が困る『妊娠小説』、各種文章読本を比較した『文章読本さん江』、名作文庫の巻末解説を比較した『文庫解説ワンダーランド』、1960年代から2010年代の文学史をカバーした『日本の同時代小説』、いずれも見事だった。だから本書を手に取った。
『ハイジ』の作者シュピーリはゲーテの影響を受けていて、『ハイジ』はゲーテのビルドゥングスロマンを意識しているという。
ビルドゥングスロマン=教養小説は通常、男子が長い旅に出て、さまざまな困難や挫折の体験を重ねて自我を確立する物語です。でもそれは、男の子の専売特許ではないと、『ハイジ』は主張します。たった5~9歳の「みなしご」の女の子を主役に、教養小説をやってみせたことが『ハイジ』の大きな功績だった。
『あしながおじさん』について、
ジュディが4年間で劇的に成長したのは、自分の部屋を持ち、手紙を書くことで自分を見つめ続けた結果でした。そしてジャーヴィス(あしながおじさん)も、4年間の手紙を通じてジュディに「教育された」と考えるべきでしょう。強圧的な態度に出たら、この人は絶対に抵抗する。女は自分の思い通りにならないと彼は知ったはずです。ジュディが「ダディ・ロングレックス(あしながおじさん)」と呼び続けた疑似的な父親はこの世に存在しなかった。その意味で『あしながおじさん』は「おじさん」を最終的には殺す物語だったともいえます。
おわかりいただけたでしょうか。結婚という切り札は、このように使わなければなりません。20世紀のシンデレラを舐めてもらっちゃ困るのです。
「あとがき」で斎藤は9冊の少女小説を簡単に形容する。
シンデレラ物語を脱構築する『小公女』
出稼ぎ少女に希望を与える『ハイジ』
生存をかけた就活小説だった『赤毛のアン』
社会変革への意思を秘めた『あしながおじさん』
肉体労働を通じて少女が少年を救う『秘密の花園』
父母の抑圧をラストで破る『大草原の小さな家』シリーズ
正攻法の冒険小説だった『ふたりのロッテ』
世界一強い女の子の孤独を描いた『長くつ下のピッピ』
さすが斎藤美奈子さん!