広中一成『後期日中戦争』を読む

 広中一成『後期日中戦争』(角川新書)について、保坂正康が朝日新聞に書評を書いていた(6月12日付)。

 

 日中戦争の8年余の期間は前半と後半に分かれる。太平洋戦争開始後の後半は、著者の指摘通り、太平洋戦争の陰に隠れ、精緻に検証されているとは言い難い。実は、細菌戦、毒ガス戦、強制連行などの戦時の違反行為は後半も少なくない。

 後半の中から5つの作戦を取り上げ、一貫して中国戦線にいた第3師団を中心に、日中戦争が太平洋戦争の別動隊として組み込まれていた史実を明かす。次代の歴史家による視点であり、同時代史の制約から解き放たれている新鮮さが魅力的だ。(中略)

 本書で「歴史」の見方が緒についたように思える。

 

 また藻谷浩介も毎日新聞に紹介している(7月3日付)。

 

 掲題書の記述は1941年末の米国参戦以降の、中国中南部での戦闘に絞られるが、泥沼の戦場の実態は生々しい。開戦目的も終着点も不明で、制空権もなく、歩兵戦で殺戮と撤退を繰り返す日本軍。民や兵の命を顧みぬ焦土作戦を続ける国民党軍。

 犠牲者は暴力と食糧収奪にさらされ続けた中国の民衆だ。日本軍の死者46万人も、大多数が糧秣や医薬不足での戦病死だったという。

 

 読んでいて、「泥沼の戦場の実態は生々し」く、読書を続けるのが困難なほどだった。食糧の補給は最初から計画にはいっておらず、現地調達を主体にしている。しかし後続の部隊になれば、現地調達しようにもすでに収奪されていて、それも叶わなかった。弾薬の補給も十分ではなかった。第2次長沙作戦の失敗の責任を誰も取ろうとしない。無責任体制は日本軍の宿痾だった。