牧野信一「西瓜喰ふ人」を読む

 牧野信一の短篇小説「西瓜喰ふ人」を読む。牧野は明治29年生まれで、昭和11年に39歳で自死している。私小説の作家であまり関心を持たなかった。しかし、大江健三郎古井由吉が対談『文学の淵を渡る』(新潮文庫)で牧野を絶賛している。牧野をとびきりの名手の技と呼んで、

 

大江  続いて芥川を神経衰弱にしてしまうにたる奇っ怪な名手二人が現れてくる。牧野信一の「西瓜喰ふ人」。

古井  いや、大変な作家がいたと思いました。

大江  この短篇選の中で最上の作品だと思う。

古井  僕もこれが一番です。

大江  牧野信一は、芥川に比べれば民衆の支持、批評家の支持でいって、大人と子供ぐらい違ったでしょう。しかもこれだけしっかりしたものを残して自殺していったんですね。

  

 「西瓜喰ふ人」を読む。小説を書いている瀧という男とその友人である余が主な登場人物で、余が観察しているところ瀧は作品を書いている気配がない。でも瀧はずいぶん書き進んだという。余が望遠鏡で瀧を観察している間、瀧は人に会ったりダンスをしたりしていて、明け方になると余の部屋に来て一緒に寝てしまう。余は瀧のことを日誌に書いているが、実は瀧は余が寝たあとに起き出して、その日誌を書き写している。

 この短篇は余が瀧の事を書いた日誌を瀧が書き写したものだった。二人は同一人物だった。なんというモダニズム文学なのだろう。単純な自然主義作家・私小説作家ではなかった。

 牧野信一をきちんと読んでみよう。

 

 

 

西瓜喰ふ人

西瓜喰ふ人

 

 

 

文学の淵を渡る (新潮文庫)

文学の淵を渡る (新潮文庫)