福島次郎『三島由紀夫―剣と寒紅』を読む

 教えてくれた人がいて、福島次郎『三島由紀夫―剣と寒紅』(文藝春秋)を読む。著者は大学生のとき三島の『仮面の告白』を読み、自分と同じ趣味(男色)の人がいると、三島に興味を持ち、『禁色』を読んでその中に出てくる男色家たちが集まる店の場所を聞くために三島を訪ねる。三島より数歳若くハンサムだった福島は三島に気に入られ、三島の恋人?になる。

 二人はホテルに泊まったり温泉旅行に出かけたりする。福島はそこでの三島の性癖を具体的に綴っている。三島の相手をしたものの、福島は興奮することなく三島の行為を冷静に見ている。その時三島がどんな声を上げたとか、具体的に書き連ねる。

 本書は三島が亡くなって28年後に出版された。すぐに遺族から出版差し止め訴訟が起こされ、遺族の主張が通ったがすでに10万部が発行されて流通したあとだった。だから現在文藝春秋からは入手できないが、古本や図書館には収蔵されて読むことができる。

 身近に接した福島ならで知ったことがあり、愛人?として信頼した相手にだけ語ったことがある。それは三島の恥部を覗くという不謹慎な興味を掻き立てられるが、同時にそんなことまで知ってはいけない、知られてはいけないという気がする。

 ねじめ正一は『荒地の恋』で荒地の詩人北村太郎が看護婦と「二人で向かい合って(親子丼を)食べ、それから当然のように性交をおこなった」と書いた。これは下品だ。二人はその晩泊った、くらいで十分なのだ。何があったかはそれで分るから。小津安二郎の『東京物語』を見て、欧米の評論家は笠智衆と嫁が旅館の一室に布団を並べて寝たことを指して、二人に関係が生じたと深読みをしているという。日本の観客は誰もそうは考えないが、そんなシーンからでさえ深読みをする文化があるのだ。だから福島のような下品な描写や、ねじめのような「性交をした」などと書くべきではないのだ。

 福島次郎は本来三流の作家にすぎないが、本書が評判になってほかの作品もつぎつぎに出版されているようだ。若い時一度だけ芥川賞の候補になったというが、三島と関係しなかったら地方の同人誌作家として忘れられたままだったろう。

 

 

三島由紀夫―剣と寒紅

三島由紀夫―剣と寒紅