幽草の句

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 先日曽根原幽草のあじさいの句を紹介したが、『合同句集 岳樺』(雲母長野句会発行)に載っているほかの句も紹介したい。発行は平成2年、1990年1月1日。

あぢさゐや南溟遠く沈みし船
悲しみを頒つひとありさくらんぼ
甚平やどこから見ても小さき耳
さぎ草の揺るるや牧師登壇す
金亀子花に埋れて雌を抱く
夜学子の疲れ泛きたる羽蟻の夜
地祭りの祝詞がまねく夕立雲
さまざまの人去りしまま合歓の花
瘴癘の地は天翔けようりの馬
野仏のふと笑み給ふ猫じゃらし
かまきりの穏やかな死がすぐそこに
薬湯を吹きさましつつ石蕗の花
たあいなく酢牡蠣にむせて老兆す
合歓の実の鳴るや北より雪催
四五株の葉牡丹を見て鬼子母堂
落葉してよりひろびろと鳥の空
遅刻して悴かみしまま席に着く
夕凍てて口閉じ給ふ六地蔵
せきれいの重みに耐へてうす氷
不機嫌にもろみぶつぶつ寒造り
新しきもの見えてくる雪解かな
ひとを恋ふ夕べはことに白牡丹
芍薬のほぐるる夜の嘆きかな
ふと戻る正気があはれ走り梅雨
あぢさゐは雨の浄土の花ならむ

 幽草氏は学徒出陣で中国戦線に駆り出されたが、戦争のことは一切話さなかった。でも句の中に戦場が顔を出している。「南溟遠く沈みし船」「瘴癘の地は」などなど。