有名人との遭遇

 有名人と遭遇した経験は数少ない。妹尾河童には両国のシアターXで遭遇した。芝居の途中休憩の時間、コーヒーなどの自販機の前で並んでいたら私の前が妹尾河童だった。なんか時間がかかっていたので声をかけたら買い方が分からなかったようだった。教えてあげてお礼を言われた。
 加藤剛には2度遭遇した。京橋のギャラリー久保田の前に人が集まっていて何かと思ったら加藤剛夫妻がギャラリーから出てきて車に乗るところだった。奥さんらしき人に随分丁寧な感じで接していて印象に残った。次は新宿高島屋の先の紀伊國屋劇場で木冬社の芝居を見たあとだった。終演後帰る時狭いエレベーター内に加藤夫妻が乗ってきた。加藤さんと肩が接していた。満員のエレベーターの中で、きわめて優しく奥さんに君疲れなかったかいと声をかけていた。こんな多くの人の中で優しい言葉を掛けるなんて、なんてフェミニストなんだと思った。後日業界通の知人から加藤は恐妻家なんだと教わって納得した。
 武満徹とはサントリーホールで連れションした。まさか覗き込むなんていう失礼なことはしなかった。
 黛敏郎サントリーホールサマーフェスティバルの時ロビーでよく見かけた。ロビーの数少ないソファーに大股を開いて一人で座っていて、周囲を睥睨している印象だった。しかしあまり人が近づいて行かなくて黛の孤独を感じた。
 一番印象に残っているのは永六輔だった。これもシアターXで木冬社の芝居を見たとき、休憩時間に何列か前の席でずっと頭を両膝の間に突っ込んでいる客がいた。異様な感じだった。それが永六輔だった。おそらく誰からも声を掛けられたくないのだろう。最近NHKのサラ飯の番組で永六輔は年間1万通のファンレターを受け取り、几帳面にもそのすべてに返事を書いていたと紹介していた。街で声を掛けられることも多いのだろう。声を掛けられたら無下に相手をしないこともでき兼ねたのかもしれない。それであんなにも異様に膝の間に頭を突っ込んで顔を隠していたのだろう。思いおこすたび痛ましいことだと思う。
 私はむかし近眼なのにうっとうしくて眼鏡を掛けなかった。こちらが相手の顔をよく見えないので平気で相手の顔を凝視したのだろう。カミさんから、やめなさいよガンを付けるのはと何度か注意された。ガンを付けてもそれが咎められなかったのはこちらの顔が怖いからだったからに違いない。