東直子歌集『青卵』を読む

 東直子歌集『青卵(せいらん)』(ちくま文庫)を読む。東2冊目の歌集。その歌のいくつかを引く。

ママンあれはぼくの鳥だねママンママンぼくの落とした砂じゃないよね
ピストルに胸を刺されて死んだのよ、ママン、水着の回転木馬
煙立つ終点の駅我がドアを砂にまみれし指で開きぬ
つぶしたらきゅっとないたあたりから世界は縦に流れはじめる
こぼれたものは色がなかった 1977年5月9日
「…び、びわが食べたい」六月は二十二日のまちがい電話
好きだった世界をみんな連れてゆくあなたのカヌー燃えるみずうみ
電話口でおっ、て言って前みたいおっ、て言って言って言ってよ
砂糖水煮詰めて想う生まれた日しずかにしずかに嵐が吹いてた
線路残る夜の道路を超えてゆく背中にウサギミミを垂らして


 巻末の対談で穂村弘が選んだ作品を引いてみた。どれもつまらない。東の歌は修辞・形容・文体がそこそこ巧みだけれども根本的にセンチメンタルだと私には思われる。巧みな修辞と貧しい訴求力。
 花山周子が解説を書いているが、これがどうにも提灯記事に思えたならない。必要以上に相手に忖度しているような印象なのだ。裏表紙の惹句に「柔らかな空気をまといながら、時にハッとさせられる表現や心の奥を覗くような影を含んだ歌など、独自の感覚に満ちた一冊」とある。このあたりの評価が私にとってもギリギリ肯定できるところだ。

 

青卵 (ちくま文庫)

青卵 (ちくま文庫)