ドゥ・ヴィット、谷川俊太郎『あのひと』を読む

 マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット構成・絵、谷川俊太郎 詩の『あのひと』(スタジオジブリ)という〈やおい〉絵本を読む。
 谷川俊太郎の詩が「私はひとり そらのした/私はひとり くさのうえ/私はひとり ひとりがいい/あのひとを ゆめみて」と書かれ、若い男が彷徨い、林で釣り竿を採り川で銀の魚を釣り上げる。火を起こしていると誰かに名前を呼ばれる。振り向くと一人の女がいた。女はあっというまに走って消えた。男は丘を越え谷をさすらい年を重ねて女を探した。髪も髭も白くなっていった。そおしてついにあの人を見つける。二人は手を繋いで歩いて行った。
 これを〈やおい〉(山無し、落ち無し、意味無し)と言わずに何と言おう。何てつまらない絵本なんだ。そして最後にイエ―ツの詩が英語で載っていて、この絵本はこの詩に着想を得ていると記されている。その詩“The Song of Wandering Aengus”を引用する。

I went out the hazel wood,
Because a fire was in my head,
And cut and peeled a hazel wand,
And hooked a berry to a thread;
And when white moths were on the wing,
And moth-like stars were flickering out,
I dropped the berry in a stream
And caught a little silver trout.

 

When I had laid it on the floor,
I went to blow the fire a-flame,
But something rustled on the floor,
And some one called by me name;
It had become a glimmering girl
With apple blossoms in her hair
Who called me by my name and ran
And faded through the brightening air.

 

Though I am old with wandering
though hollow lands and hilly lands,
I will find out where she has gone,
And kiss her lips and take her hands;
And walk among long dappled grass,
And pluck till time and times are done,
The silver apples of the moon,
The golden apples of the sun.

 その訳詩を探すと加島祥造 訳編『イエ―ツ詩集』(思潮社)にあった。その中から前川俊一訳で「さまようイーガンスの歌」を転載する。

私は頭が火照っていたので
はしばみの林に出かけた。
そして はしばみを切り剥いで棒をつくり
いちごの実を糸につけ
白い蛾が飛び
蛾のような星がきらめき出す頃
いちごの実を流れにおとして
銀色の小さな鱒をとらえた。

 

それを床に置くと
火をおこしにかかった。
しかし、さらさらと床に音がして
誰か 私の名前を呼ぶのだ。
それは 林檎の花を髪にかざした
微光を放つ少女になっていて
私の名を呼んで駈け出し
あかときの光に消えて行った。

 

私は盆地や丘々を
さまよい歩いて年老いてしまったが
彼女の行方をつきとめて
その唇に口つけし、その手を把りたい。
丈高い斑の草地をあるきまわり
時がついに果てるまで
月の銀の林檎と
太陽の金の林檎を摘みたい。

 別の訳詩では鱒が少女に変わったとなっていた。いずれにしろ、原詩では男はついに少女に会わないのに、絵本では最後に仲良く手を繋いでいる。〈やおい絵本〉と呼ぶべきだろう。

 

あのひと (ジブリ)

あのひと (ジブリ)