山本弘(題不詳)、油彩、F4号(24.0cm×33.5cm)
1976年制作。山本弘46歳。最晩年の作品になる。それにしてはこの単純な構図は何だろう。キャンバスの裏には山本以外の筆跡で「静物」とある。画面の右下には「ヒロシ」とサインがされている。この片仮名のサインは晩年に時々見られるものだ。漢字の「弘」のサインとはどう書き分けていたのか分からない。
誰かが「静物」と書いたように、蜜柑のようにも見える。中央に黄色い丸を描き、周囲を太い黄緑色の絵具で隈取っている。もしかすると泥流を流れていく蜜柑だろうか。だが蜜柑ではないのではないか。針生一郎さんが山本は象徴主義だと言われたことがある。
いくつかの作品で、山本は自分の人生を顧みてそこから得たモチーフを造形した作品を作っている。完成した作品には山本の抱いたモチーフはもう読み取れないことが多く、山本にとってモチーフを顕在化することは重要ではなく、それをきっかけにしているのではないかと思うようになった。そうすると、この絵も蜜柑とか静物などではなく、このような形を描いたということなのかもしれない。
周囲の微妙に色彩の入りまじる灰色の地色の中央に透明感のある黄色が輝いている。不思議な作品だ。