野木萌葱 作『三億円事件』をシアター711で見る

 野木萌葱 作『三億円事件』を下北沢のシアター711で見た(10月15日)。ウォーキング・スタッフ プロデュース、和田典明 演出。
 三億円事件は1968年に府中市で実際に起こった現金3億円強奪事件。事件は7年後時効になった。芝居は時効3カ月前の府中署の特別捜査本部での刑事たちを描いている。時効を間近に控えほとんどの刑事たちが移動して操作本部を去り、いまでは数人しか残されていない。府中署刑事課の4人と警視庁捜査一課から来た4人が対立する。
 次いで時効2か月前、時効1か月前の同じ捜査本部での緊迫した会話が続く。会話というより怒鳴り合いだ。そして時効前夜、
 野木は三億円事件の捜査本部など、閉ざされた場所での緊迫した台詞劇を好む。『東京裁判』は、日本人弁護士たちの葛藤を、『骨と十字架』では北京原人の発見に関わったカトリック神父であり古生物学者のテイヤールに対するヴァチカンの、カトリックの教義と進化論の矛盾をめぐる論争劇だ。いずれも緊迫する科白の応酬が見る者の緊張を緩めさせない。見事な構成だ。野木が劇作家として優れた才能を有していることはだれしも異議を唱えないだろう。
 ただ、論争の面白さが第一のテーマに思えてしまうのは、時事的なことへの批判、深い思想性が読み取りにくいことだ。だが、野木の面白さは群を抜いており、今後も彼女の舞台は見逃さないつもりだ。