山本弘の作品解説(70-2)「白い顔」

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 山本弘「白い顔」、油彩、F30号(91.0cm×73.0cm)
 制作年不詳だが、1978年10月に飯田市で開かれた生前最後の個展に展示された。以前この作品の解説として、「題名から白い顔が描かれているのだろうが、どれが眼鼻かと考えるとよく分からない」と書いた。現在開催している渋谷のアートギャラリー道玄坂山本弘展の会場でこれを見ていると、何が描かれているか見えてきた。これは愛子さん(奥さん)の顔に違いない。細面の顔で、ややうつむき加減の顔を大きく描いている。参考までに愛子さんをリアルに描いた図版を貼付する。

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 作品「白い顔」からは何が顔なのかほとんど分からない。他の作品にも言えることだが、山本にとって何を描いているかは重要ではないのだろう。現実に存在する具体的なものに触発されて描いているが、そのことを説明的に表現しようとは少しも思っていない。本当は私のように作品を文学的に見て、描かれているものを探ることは邪道なのだろう。ただ造形的に見ることが山本の意にもかなっているのではないか。
 山本は多様な傾向の作品を同時に描いている。今回の個展では30点余を展示しているが、3号の小品の風景画を除いて、すべて1976~78年(46~48歳)の3年間に描いたものばかりだ。たった3年の間でこんなにも多様な表現をしている。あらためて山本の創造力の優れていることに舌を巻く。