野木萌葱 作、小川絵梨子 演出『骨と十字架』を見る

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 新国立劇場小劇場で野木萌葱 作、小川絵梨子 演出『骨と十字架』を見る。野木は2年ほど前に『東京裁判』を見ていっぺんに魅了された。この『骨と十字架』は、北京原人の発見に関わったカトリック神父であり古生物学者のテイヤールに対するヴァチカンの、カトリックの教義と進化論の矛盾をめぐる論争劇だ。
 イエズス会本部でヴァチカンの検邪聖省責任者がテイヤールを詰問する。イエズス会総長は穏便に済ませようと画策する。
 ほかに登場人物は考古学者の司祭とテイヤールの弟子の5人。緊迫する科白のやり取りだけで芝居が進む。ほとんど古典的な作劇だ。野木の台本は無駄がなく見事だ。私は7月19日に舞台を見たが、その前日に山本健一による劇評が朝日新聞に載っていた(2019年7月18日夕刊)。

……聖書の国米国ならいざ知らず、今の日本にとり、どれだけ切実な主題なのか戸惑った。(中略)
 神農(テイヤール)が真情を、伊達(司祭)が心の屈折を好演する。皆の台詞の応酬も緊密だ。しかし総本山で高位の聖職者たちが繰り広げる尋問劇。風格や厚みがたりない。野木には今、高踏より現実を撃って欲しい。

 現在最も優れた劇作家だと思われる野木萌葱、山本の言う「高踏より現実を撃って欲しい」とのアドヴァイスに私も同意する。芝居そのものの完成度は極めて高かったのだから。