早川聞多『春画』を読む

 早川聞多春画』(角川ソフィア文庫)を読む。ここ10年ほどか、浮世絵春画が解禁されて何種類もの大判の画集が出版されている。大英博物館で開催された春画展も日本に持ってきて盛況だったと聞く。それを文庫本で取り上げるのはリスクもある。文庫は判型が小さいので画集としてかなり不利だろう。絵が見づらい。
 そこで本書では春画の分析に重点を置いている。それがなかなか面白かった。歌麿の代表作「歌まくら」第8図について、

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 歌麿が30代半ばにものした12枚組物の春画であるが、その描写力、表現力は春画史上のみならず浮世絵史上圧巻である。12図春画がそうであったように、12図各図に登場人物の一貫性や物語性はなく、各図が独立して性の様々な場面を描いている。各図は背景描写を極力抑え、絡み合う男女が前面にクローズアップされている。その表情は様々な場面における性的な感情が的確に描かれている。それは男女の顔貌の眼付や口元の描写、手足や指先の描写によって如実に表されている。おそらく浮世絵史上のみならず、日本絵画史上においても、これほど人間の感情や情念を如実に描き出そうとした作品は他にないだろう。

 また刷りの細部についても、照明の角度を変え、凹凸写真や裏面の写真を併用して、木版技術を紹介している。国貞の「吾妻源氏」については、本図だけで50版を越え、木版史上最高の技術の結集であろうと褒めたたえている。
 『春画』と題しながら、表紙は上品な図版で構成されており、人ごみで持ち歩いたり読んだりしても違和感が少ない。