三好十郎作『トミイのスカートからミシンがとびだした話』を見る


 10月末に新国立劇場小ホールで同劇場演劇研修所第12期生試演会があった。演目は三好十郎作の『トミイのスカートからミシンがとびだした話』で、1951年に発表されてその年に初演した以来の舞台化らしい。演出が田中麻衣子。パンフレットにあらすじが紹介されている。

 戦後、東京周辺の都市、明け方に近い時分。身体を売って生計を立てていた富子と、その仲間たちが酒を飲みながら歌を唄っている。貯めた金でミシンを手に入れ、洋裁で生活していこうとする富子の送別会である。
 東京郊外の伯父の家に戻った富子は、伯父夫婦の助けを借り、弟・妹と暮らしながら洋裁店を開く準備を進めている。そこへ、新聞記者がインタビューに訪れ、世の中に明るい希望を与えるために富子のことを記事にしたいという。

 記事から富子の過去がばれて苦境に陥る。なんだか糞リアリズムっぽくていやだなあと思って見ていたが、古い芝居なのに意外に省略も多く歯切れよく進んでいく。三好十郎の娘の三好まりがコメントを寄せていて、「長い戯曲なので演出家によってテキスト・レジがなされた」とある。ネットの「演劇用語」にテキスト・レジとは「脚本家が書いた本を、実際に上演できるように訂正や手直しすること」とある。あるいは大きく演出家の田中の手が入っているのかもしれない。大衆演劇に見られるような説明過多の芝居ではなかった。もともと三好十郎の芝居がそのように洗練されたものなのだろうか。
 研修生の最初の試演会に取り上げる作品としては、適当なのかもしれないと思った。初めから前衛劇や不条理劇、難しい芝居ではなく、ちょっと古い芝居を取り上げたのは役者のことを考えた選択なのだろう。
 富子を演じた林真菜美は好演だった。さすが主役に選ばれるだけのことはある。途中、富子のストリップのシーンだけは違和感が残った。あんなパフォーマンスだったのだろうか。まあ、私だって1950年ごろのストリップなんて演出家同様知らないのだから偉そうなことは言えないが。
 三好十郎は57編の戯曲と多数のラジオドラマを書いているというが、どれも見たことがない。代表作『斬られの仙太』だけは、清水邦夫の『楽屋』にそのシーンが引用されていた。ぜひ見てみたいと思っているが、まだその機会がない。
 研修生の試演会とはいうが、面白く十分楽しめた。