武澤林子句集『遍歴』を再読する

 武澤林子句集『遍歴』(本阿弥書店)を読む。武澤林子は伯母で先月14日に亡くなった。翌日が96歳の誕生日だった。大正11年に東京上野桜木町に生まれている。以前読売新聞の長谷川櫂のコラム「四季」に伯母の「雲の峰越えて移すや父祖の墓」が取り上げられた時(2011年7月5日)、このブログで紹介したことがあった。
 亡くなったのを機に『遍歴』を再読した。印象に残った句を拾ってみた。

椋 の 洞 濁 世 の 雪 の 残 り け り   (洞=うろ)


野 焼 き の 焔 横 一 線 に 立 ち 上 が り   (焔=ほ)


    夫の
何 時 か 死 ぬ は な し 逸 ら せ し 九 月 は も


    悼 母替りの叔母八十八歳
土 用 入 り 死 化 粧 の 唇 少 し あ き


そ の 丈 に 自 づ と 屈 む 花 菖 蒲


殺 し え ぬ 青 虫 の 眼 に 見 ら れ を り


存 へ ば よ き こ と も あ り 小 豆 粥   (存=ながら)


よ べ の 雨 杏 の 蕊 の 庭 埋 む

 小原流を教え、茶を嗜んでいた伯母の家の壺庭にはエイザンスミレが咲いていた。エイザンスミレは私も好きで、ベランダのプランターに植え、種を採ってはあちこち蒔いて歩いたが、根付かなかった。叔母の家のエイザンスミレはどうなっただろう。


武澤林子の俳句(2011年7月7日)



遍歴―武澤林子句集

遍歴―武澤林子句集