宮本研『美しきものの伝説』を文学座アトリエで見る。文学座のホームページから、そのあらすじ。
物語は大正元年、伊藤野枝が社会主義活動家・堺俊彦の売文社を訪ね、 大杉栄や平塚らいてうに出会う場面から始まる。 〈売文社〉〈芸術座〉をめぐって、人々がいかに生き、ハイカラでモダン、 モボ・モガが闊歩する美しき時代"ベル・エポック"と呼ばれた大正期は、 実は明治史に一大汚点を残したと言われる明治43年の"大逆事件"以来、 大いなる挫折のあとの「冬の時代」であった。 しかし、そのような弾圧の中でなおすべてに対して挑戦的に、ひたむきに生き抜いた人々がいた。 売文社を中心とする堺俊彦、その売文社にあきたらず新たに近代思想社をつくった大杉栄、 荒畑寒村、また芸術座を中心に活躍する島村抱月、松井須磨子、沢田正二郎、 青鞜社を中心とする平塚らいてう、神近市子、伊藤野枝等がモデルとなっている登場人物たち。 花を咲かそうとして死んでいったのか・・・・・。 史実と虚構が入り交じった人物たちの物語が楽しくも哀しく展開していく・・・・・。
有名な戯曲で、一度は見たいと思っていた。今回文学座附属演劇研究所研修科卒業公演で取り上げられたので見ることができた。3時間超の長丁場。さすが名作と言われる芝居だった。伊藤野枝は夫辻潤に子供を預けて大杉栄と一緒になる。神近市子が三角関係の大杉栄を刺した日陰茶屋事件は以前吉田喜重が映画『エロス+虐殺』で取り上げていた。
ただ、登場人物が少なくなく、舞台の役者が誰を演じているのか、しばしば配られたパンフレットを見なければ分かりにくかった。それは、登場人物たちがあだ名で呼ばれていることにも関係があるだろう。大杉栄はクロポトキン、堺利彦は四分六、荒畑寒村は暖村、平塚らいてうはモナリザ、神近市子はサロメ、島村抱月は先生、沢田正二郎は早稲田、中山晋平は音楽学校、小山内薫はルパシカ、久保栄は学生と呼ばれている。伊藤野枝はそのまま野枝だったが。
思うに、1968年に初演されたとき、やっと戦後23年だったので、戦前の記憶がまだ新しく、少ない情報でもこれらの登場人物が観客たちに分かったのかもしれない。
演出が西本由香、卒業公演ということで入場料がたったの1,000円だった。
舞台は大杉栄と伊藤野枝が着飾って出かけるところで終わる。この後二人は憲兵隊に捕らえられ、無残に虐殺される。殺したのは甘粕正彦とされているが、佐野眞一は『甘粕正彦 乱心の荒野』(新潮文庫)で、真犯人は甘粕ではなかったと書いていた。
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