安田理央『巨乳の誕生』を読む

 安田理央『巨乳の誕生』(太田出版)を読む。副題が「大きなおっぱいはどう呼ばれてきたのか」というもので、巨乳という概念がいつ生まれ、どのように受容されてきたかを、雑誌のグラビアやアダルトビデオを素材に分析している。その名前も、ボイン、デカパイ、Dカップなどと呼ばれ、のち巨乳、爆乳、などと名付けられる。巨乳はアメリカでは第1次大戦後に、日本では戦後から注目され始めた。安田は日本での事例を収集する。
 1964年、『平凡パンチ』が創刊される。青年向けヌードグラビアが書店に並ぶ。1965年、水城リカデビュー、バスト103センチ。1967年、青山ミチデビュー、バスト102センチ。1973年、麻田奈美のリンゴヌード、85センチDカップ(のち90センチFカップに成長)、1975年、アグネス・ラム来日で大ブーム。1980年以降、松坂季実子Gカップ、桑田ケイGカップ113センチ、イギリスのゼナ・フルゾムがバスト250センチ。細川しのぶGカップ、井上静香Qカップ124センチ。
 巨乳の歴史を雑誌やアダルトビデオなどから安田は丹念に集める。データを収集する。「おわりに」によれば、国会図書館へ通い詰めて、60年分700冊の雑誌から「グラマー、ボイン、デカパイ、Dカップ、巨乳、爆乳、カップ数表記などがいつからどのように使われていたか」を「エクセルに打ち込んでデータベースを作っていった」。
 資料として徹底していると思う。半端な仕事ではない。主な巨乳タレント、モデル、女優がいつからデビューしたか、彼女らの公称のバストサイズ、カップサイズが記録される。人名索引が付いていないのが惜しまれる。
 ところが不思議なことに、カバーを含め写真が皆無なのだ。いや、末尾に「巨乳年表 1871〜2017」というのが付録のようにあり、そこにサムネールのような白黒写真が載っている。長辺2センチ程度、写真枚数126枚(人)。これが口絵でカラーで掲載されていれば売れ行きは違っただろうと思わせるのだが。おそらく著作権や肖像権の問題なのだろう。
 安田も述懐しているが、巨乳はさほど好きではないという。私も実は巨乳に強く惹かれることはない。そのような観点から見ると、資料偏重の本書はあまり面白くなかった。これらの豊富な資料をもとに、なぜ巨乳が好まれるようになっていったかなどの考察を読みたかった。
 私は以前、このブログで男たちがなぜ巨乳を好むようになっていったかを考えた。巨乳嗜好は日本では戦後から、それはグラビア雑誌や映画からの影響だと書いた。男たちの本来の欲望ではなかった、と。すると、何人もの人から自分は巨乳がとても好きなのだとコメントされた。本書を読んでも巨乳に対する欲望は確実に伝わってくる。すると、私も先の主張を訂正しなければならない。欲望は作られるのだと。作られた欲望は本来の欲望と区別がつかない。安田も浮世絵で見る限り、江戸時代は乳房は欲望の対象ではなかったと言っている。欲望は作られるのだ。ラカンも「他者の欲望」と言っていなかったか。
 帯に都築響一が書いている。「以後、おっぱいについて語る者は、この本を避けて通ることはできないだろう」と


どうして男たちは巨乳を好むのか――巨乳論の試み(2007年6月20日