ボンテンベッリ『鏡の前のチェス盤』を読む

 ボンテンベッリ『鏡の前のチェス盤』(光文社古典新訳文庫)を読む。裏表紙の惹句から、

10歳の男の子が罰で閉じ込められた部屋で、古い鏡に映ったチェスの駒に誘われる。不思議な「向こうの世界」に入り込むと、そこには祖母や泥棒、若い男女らがいて……。(中略)20世紀前半イタリア文学を代表する異世界幻想譚!

 鏡の向こうに入り込む、つまりはルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』に影響されて書かれた作品だ。アリスの後発作品でありながら、アリスほどの奇妙さというか面白さには残念ながら少々欠けると言わざるを得ない。
 本文126ページ、それに1ページ全部を使ったセルジョ・トーファノのイラストが17ページある。それでは1冊にするのにあまりに少ないので、訳者の詳しい解説が38ページ付いている。年譜が9ページ、さらに訳者あとがきが5ページある。〆て179ページ。編集部が苦労して本の形にまとめているのが推測できる。
 訳者解説のなかに子供を主人公とする異世界ファンタジーが紹介されている。

 むしろアリスの影響を受けているとはいえ、まったく異なる時代と文化のなかで作られた物語という意味で、1922年にベンポラド社からイタリア語訳が出版されたジェームズ・バリーの小説『ピーター・パンとウェンディ』や、モーリス・ラヴェルの歌劇『子供と魔法』(1925年初演)、さらには、後述するトーファノの『ぼくのがっかりした話』(1919年)なども含めて、子供を主人公にした異世界ファンタジーの文脈でとらえるべきだろう。

 こうしてみると、『不思議の国のアリス』や『鏡の国のアリス』の質の高さに改めて驚かされるというものだ。


鏡の前のチェス盤 (古典新訳文庫)

鏡の前のチェス盤 (古典新訳文庫)