岡崎裕美子『発芽 歌集』を読む

 岡崎裕美子『発芽 歌集』(ながらみ書房)を読む。岡井隆の弟子にあたる若い歌人。といってもこの歌集は2005年出版だからすでに12年経ったことになる。

したあとの朝日はだるい 自転車に撤去予告の赤紙は揺れ


年下も外国人も知らないでこのまま朽ちてゆくのか、からだ


羽根なんか生えてないのに吾を撫で「広げてごらん」とやさしげに言う


Yの字の我の宇宙を見せている 立ったままする快楽がある


こじあけてみたらからっぽだったわれ 飛び散らないから轢いちゃえよ電車


熟れ過ぎの桃も家族も木造の家も葉月は縮みゆくなり


何もかも経験済みって顔ねまだやわらかい歯ブラシ使ってるくせに


「趣味、電車。」くらいのほうが簡単で好きよ ベッドでサルトルなんて


やわらかい部分に指を入れやれば鋭く匂い立つ早熟(わせ)みかん


無印良品」みたいに生きる とどうしても堤の顔がちらついてくる

 岡井は解説で、若い歌人としてほかに吉野亜矢、石川美南、盛田志保子を挙げている。それらも読んでみたい。

発芽―歌集

発芽―歌集