上野誠『万葉集から古代を読みとく』を読む

 上野誠万葉集から古代を読みとく』(ちくま新書)を読む。「はじめに――この本のめざすところ」で映画『君の名は。』を見たところから始めている。そして、この本は「古代社会において歌とは何か、古代社会において『万葉集』とは何であったのか、を考えるヒント集、提案集ということになる」という。
 映画の話から始まっているように、万葉集を語る新書としてはとても読みやすい。例文を挙げる時もまず訳文を示し、ついで書き下し文を挙げている。これは通常のやり方と逆で、なるほど上野の方法の方がすぐ内容が分かり、その後原文に近づいていくので古文にとても親しみやすい。本文の記述もやはりていねいで読みやすい。
 万葉集の竹取翁の歌を上野の訳と書き下し文を比べてみる。

みどり子の 赤ん坊の髪型のころにはね たらちしではないけれど お母さんに抱かれてね 紐付きべべを着たもんさ 幼髪のころは 木綿(ゆう)の肩衣(かたぎぬ)をね 一裏(ひとうら)に縫って着たもんさぁなぁ 詰襟の 少年髪のころはね 絞り染めの 袖付き衣を 着ていたもんさなぁ

みどり子の 若子髪(わかごかみ)には たらちし ひむつきの 平生髪((はふこがみ)には 木綿肩衣(ゆふかたぎぬ) 純裏(ひつら)に縫い着(き) 顎(うな)付の 童髪(わらはがみ)には 纐纈(ゆふはた)の 袖付け衣 着し我を

 さて、読み終わって、万葉集についての解説書を読んだはずなのにちょっと違うと感じた。そういえば「はじめに」で上野が書いていた。

 本書は、普通の『万葉集』の入門書ではない。
 そういう入門書については、すでにたくさんあるし、基礎的なことは、ネット上のウィキペディアにも書いてある。(中略)
 では、この本は、どんなところをめざすのか。「歌とは何か」「歌を書くということは、どういうことなのか」「歌を集めて歌集を作るとは、どういうことか」「『万葉集』というものは、どういう歌集なのか」ということを、知識として伝えるのではなく、作品のテキストや考古資料など、具体的な実例を示して考えてゆくことにしたい。

 とにかくやさしく書かれている。こんな固い内容の新書なのに1日で読んでしまった。