ギャラリーなつかの灰原千晶展「もうそうかもしれない」を見る

 東京京橋のギャラリーなつかで灰原千晶展「もうそうかもしれない」が開かれている(4月1日まで)。灰原は1990年、千葉県生まれ。2013年に武蔵野美術大学造形学部油絵科油絵専攻を卒業している。今回が初個展となる。


 画廊の中央に和式便器が設置してある。よく見ると、便器の上に竹筒で作った鹿威しが設置されていて、竹筒からは細い水が流れ続けている。一定量の水がたまると竹筒にたまった水が便器に注ぎ、空になった竹筒が元に戻ると竹筒の尻が木魚を打って音が出る。
 何でこのようなものを作ったのか。灰原は子どもの頃遠足か何かで行った古い施設で初めて和式トイレの水洗式でないものを見て驚いたという。水洗トイレと違って尻の真下に大きな穴があり、そこから深いところに落ちていくような印象を受けたらしい。
 私の世代では昔の便所は普通こんな形式だったが、灰原の世代ではある種新鮮な驚きだったようだ。それにしても水洗式でないトイレを面白がって作品にした灰原の感性がおもしろかった。



 ほかに、壁際に並べられたたくさんの小石は、自然の小石に似せて作った粘土の作品だった。また床には大きな物体が置かれていたが、河原の小石を撮影したものをプリントして岩のような形にしている。
 壁から伸ばした木の枝には白いハンカチが結び付けられていて、そこに英語で何やら書かれている。その英文を翻訳した言葉が、画廊でくれたちらしに書かれていた。

風上で狼煙が上がっている。 煙の溶けた風が、頬に当たる。焼けたにおいがした、気がする。(なぜならそのにおいを私は嗅いだことがない。)

 隣りの小さなスペース(クロスビューアーツ)には、灰原の祖父の軍人姿の写真などが展示されている。祖父は海軍予科練に志願していたが、結局生還した。灰原は祖父の写真に自分の顔をコラージュしているようだ。
 和式便所の作品は面白かったが、小石の作品や岩のオブジェ、祖父の写真などはよく分からなかった。
 鹿威しから便器に流れ込んでいる水は循環させているという。それで思い出したことがある。中野ブロードウェイの駅とは反対側の出口に小さな噴水があって、おそらく水は循環させているように見えた。もう50年近く前、友人とそこに洗剤を投入することを計画した。結局実行しなかったが、小さな噴水が泡だらけになるだろう映像はいまだに忘れない。本当に若いということはつくづく馬鹿だと思う。
 灰原の便器がどこかでデュシャンを意識しているのか、聞きそびれてしまった。そういえば、板橋区立美術館の男性用便所には、中国人作家が作ったデュシャンの便器のコピーがあり、それが実用できるようになっている。私もそこで用を足したことがあった。ほとんどの女性たちはその作品の存在を知らないだろうが。
       ・
原千晶展「もうそうかもしれない」
2017年3月27日(月)〜4月1日(土)
11:00−18:30(土曜日〜17:00)
       ・
ギャラリーなつか/クロスビューアーツ
東京都中央区京橋 3-4-2 フォーチュンビル1F
電話03-6265-1889
http://gallerynatsuka.na.coocan.jp/