中田いくみ『かもめのことはよく知らない』を読む


 中田いくみ『かもめのことはよく知らない』(KADOKAWA)を読む。中田は画家だが、最近はマンガも描いている。私は彼女の画家としての仕事が好きで、このブログでも何度か紹介している。単行本としては初めての仕事だ。
 「夜のとばり」は、少年が転校してきた同級生の女の子のことが気になっている。その子はかもめ眉なので少年のいとこがかもめって名前を付けた。本当の名前は知らない。ささいなエピソードを短篇にしている。そのマンガの後にコラムがあって、

私はかもめ眉のファンですが、そもそもかもめ眉ってなに? と時々聞かれます。
眉間がつながって、かもめが羽ばたいているように見える眉毛のことです。
国によって解釈はさまざまあるようですが、無垢の象徴であるという、ちょいと小耳にはさんだ説が私の中では一番しっくりきています。


それにしても、つながった眉毛を一番最初にかもめに見立てた人のチャーミングなセンス!
わりと一般的な呼び方だと思っていましたが、そういえば由来など詳しいことは何も知らない私です。
かもめ眉というのはあくまでひとつの愛称で、他の呼び方や、もしかしたらガクジュツテキな正式名称などあったりするのでしょうか?
ご存知の方、おられましたら是非教えて下さい。

 つながった眉といえば最初に思い出すのがメキシコの画家フリーダ・カーロだ。あまり無垢というイメージではないが。もう一つ思い出すエピソードがある。昔、友人から付き合っている彼女が職場でいじめにあっている、何かアドバイスしてほしいと言われて3人で池袋のライオンで会った。彼女は丸の内のOLでおとなしい子だった。それからひと月もたったころ、仕事途中に偶然東京駅前で彼女に会った。昼間の明るいところで見たその子は眉毛がつながっていて、鼻の下のうぶ毛も手入れされていなかった。丸の内OLで最低限の顔の手入れもしてなければ先輩OLたちにいじめられるというのが納得できた。いや、それが良いという意味ではないが。
 「キャラメル君」は、廃業したバレエ教室を借りてアトリエにしている画家の卵の前に、バレエ教室で働いていたらしい娘の幽霊が現れる。娘はいつもキャラメルを食べていて、「私案外不良よ! 勤務中にこっそり甘いの食べてるんですもん」なんて言う。2人で踊って、「いたんだろ? 君にも恋人が」「おりました 小説と噂話の中にだけ…」。というちっとも怖くない幽霊の話。
 一番長いのは「スミレ」という不思議なマンガ。灯台に住む静電気の子が主人公で、渡り鳥のツグミとの交流が描かれる。交流といってもほとんど幻想的で、その世界はマンガでしか描けないものだろう。
 中田とは彼女の個展で何度か話をしてきたが、こんなに特異なキャラクターの作家だとは知らなかった。絵画作品でも独特の世界を描いているが、漫画の世界でも成功するに違いない。結局、独特の世界観が創作の世界での成功につながるのだろう。

かもめのことはよく知らない (角川コミックス)

かもめのことはよく知らない (角川コミックス)