鳥居『キリンの子 鳥居歌集』を読む

  鳥居『キリンの子 鳥居歌集』(KADOKAWA)を読む。カバーの著者プロフィールから引く。

2歳の時に両親が離婚、小学5年の時に目の前で母に自殺され、その後は養護施設での虐待、ホームレス生活などを体験した女性歌人。義務教育もまともに受けられず、拾った新聞などで字を覚え、短歌についてもほぼ独学で学んだ。(中略)義務教育を受けられないまま大人になった人たちがいることを表現するためにセーラー服を着ている。

 上記のほか自殺未遂など悲惨な生活を経験した歌人が歌っている。

助けられぼんやりと見る灯台はひとりで冬の夜に立ちおり
目を伏せて空へのびゆくキリンの子 月の光はかあさんのいろ
目覚めれば無数の髪が床を埋め銀のハサミが傍らにある
冷房をいちばん強くかけ母の身体はすでに死体へ移る
サインペンきゅっと鳴らして母さんが私の名前を書き込む四月
墓参り供えるものがないからとあなたが好きな黄色を着ていく
あそぼうと大人のひとが言うときに少女は昏く下を向きおり
左腕は便箋に似て横線が刻まれている白き傷あと
遮断機の黄色と黒の縞々をつかんでふいにくぐりぬけゆく
カンカンと警報知らす音は鳴り続けて友は硬く丸まる
警報の音が鳴り止み遮断機が気づいたように首をもたげる
急行の軋み過ぎゆき友だちは手品のように消えてしまえり

 歌に読まれたように、彼女の目の前で鉄道自殺した友だちもいた。悲惨な歌が続く。独学でここまで読めるようになって、歌うことで治癒してもいったのだろう。
 ただまだ表現が舌足らずで生なのだ。おそらくこの先良い歌人に育っていくのだろう。


キリンの子 鳥居歌集

キリンの子 鳥居歌集