『ちくま』12月号の酒井駒子のエッセイが印象に残った

 筑摩書房のPR誌『ちくま』12月号の表2のエッセイ、酒井駒子の「地下鉄」がなぜか印象に残った。たった20行のコラムみいたいなものだけど。
 その全文を勝手に引用する。

 夕方の地下鉄に乗る。車内には、たくさんの人が乗っている。私の目の前には、眼鏡をかけた女の子が立っている。女の子はスマートフォンに夢中で眼鏡がずれ落ちている。ずれ落ちた眼鏡から覗く瞳が大きい。睫毛が長くて、顔が小さく、色が白い。身長は140cmくらいで、制服のようなスカートとローファーを履いている。中学生くらいに見える。大変綺麗な子なのに、どこか奇妙な感じがする。髪は脂じみていて、着ているセーターがヨレヨレだ。持っている布バッグのリボンも昆布のようにたれ下がっている。何か痒いのか、頬の辺りを同じ動作で、ひっきりなしに爪で掻いていて、その爪が伸びていて汚れている。汚れた爪は、けれど素晴らしく綺麗な形をしていて、指も惚れ惚れするほど白くすらりとしている。私は面白くて、じっと見つめてしまう。女の子は寄り目になってスマホの画面を見つめている。鏡を見ない野生の鹿か何かが地下鉄に乗っているようだ。

 地下鉄に野生の美少女が乗っていたようだ。しかし、それよりも酒井駒子の短い文章が的確で素晴らしい!