穂村弘『はじめての短歌』(河出文庫)を読む。穂村が社会人を相手に行った短歌ワークショップをもとに書籍化したもの。基本が社会人=サラリーマン相手に短歌の魅力を語っている。分かりやすく面白かった。
良いという短歌をあげて、その改悪例を示している。普通は投稿された短歌を添削するのだが、ここで穂村は改悪例をあげてなぜ悪いか解説している。
目薬は赤い目薬が効くと言ひ椅子より立ちて目薬をさす 河野裕子
目薬はビタミン入りが効くと言ひ椅子より立ちて目薬をさす 改悪例1
目薬はVロートクールが効くと言ひ椅子より立ちて目薬をさす 改悪例2
二つの改悪例のうち、1より2の方が情報としてはより精度を増している。ビジネス文書では制度の高い情報の方が良いが、短歌では逆になる。「赤い目薬」という固有のあいまいな言い方に強い印象を覚える。
こんなふうに様々な短歌をあげて、それを解説しながら短歌の面白さを語っていく。
ひも状のものが剥けたりするでしょうバナナのあれも食べている祖母 廣西昌也
あのこ紙パックジュースをストローの穴からストローなしで飲み干す 盛田志保子
銀杏を食べて鼻血が出ましたかああ出たねと智恵子さんは言う 野寺夕子
単三電池握りしめて単三電池を買いに行った日 又吉直樹
北風をきって浣腸買いに行くこれも仕事のひとつ秘書なり 安西洋子
したあとの朝日はだるい 自転車に撤去予告の赤紙は揺れ 岡崎裕美子
又吉の作品は短歌ではなく自由律俳句。穂村の解説がユニークで楽しかった。ただわずか170ぺージで、それを薄く見せないために本文用紙にちょっとざらざらする厚めの紙を使っている。ま、いいけど。自宅からサントリーホールへの片道と休憩時間に読み終えてしまった。
- 作者: 穂村弘
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2016/10/06
- メディア: 文庫
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