山本弘の作品解説(50)「(題不詳)」


 山本弘「(題不詳)」油彩、F4号(33.3cm×24.2cm)
 1978年制作。山本弘48歳、亡くなる3年前になる。1979年は体調を崩して作品は極めて少なく、1980年は病院に入院していて作品はない。1981年に退院したが、少し制作しただけで亡くなってしまった。だからこの1979年が実質的に最晩年の豊穣の年となった。山本は1970年代後半に傑作が多い。
 さて、この作品だが何を描いているのか私には分からない。おそらく風景ではないかと思うのだが、あるいはこけしみたいなものが横たわっているのだろうか。もしもそうなら、晩年2度の脳血栓の後遺症で手足が不自由になった自分を戯画として描いているのだろうか。
 何が描かれているか分からないにも関わらず作品として素晴らしい。山本は具体的なものに触発されて作品を作っているが、必ずしもそれを説明しようとはしない。そして何が描かれているか分からなくても作品の価値は変わらない。色彩は美しく形は見飽きることがない。
 最近、尊敬する画家と話していて、ある画商が松田正平先生は秀才だけど、喜多村知先生は天才よと言ったと話したら、その画家が、ぼくは喜多村さんが好きだけど天才というのとはちょっと違うと思う、天才というのは山本先生のことだよと言われた。
 山本は長谷川利行が好きだった。一見似ている部分も見られるが、長谷川の作品は構成が弱いと思う。山本はこんな小さな作品(4号)でも構成に隙がない。
 この作品も10月31日から始まる銀座K'sギャラリーでの山本弘展に出品する予定。


※追記

 作品を見ていて思い出したことがある。これは1971年に描いて現在飯田市美術博物館に収蔵されている「日々酔如泥」と同じモチーフではないだろうか。その作品は男が泥酔して寝ているものだった。構図がよく似ているのだ。


飯田市美術博物館の企画展「室内の絵画−静物と人物−」に展示された山本弘(2011年10月17日)