ミヅマアートギャラリーの会田誠展を見る


 東京飯田橋ミヅマアートギャラリー会田誠展が開かれている(8月20日まで)。朝日新聞に丸山ひかりの紹介が載っていた(8月2日夕刊)。

……開催中の個展では、プラスチック製の使い捨ての弁当容器に発泡ウレタンを盛り、アクリル絵の具で塗った新作約50点が並ぶ。「学生の頃から、僕のような具象画は題材に頼ったイラストに過ぎないと言われ、いずれ色と形だけでやってみせようと思っていた」と会田は言う。(中略)
「国宝級のお茶わんのようなたたずまいをプラスチックで作れたらという野心もあった」(中略)
 個展のタイトル「はかないことを夢もうではないか、そうして、事物のうつくしい愚かしさについて思いめぐらそうではないか。」

 作品は弁当箱に分厚い絵具の塊が置かれたように見えるが、会田の言う通り絵の具の塊ではなくウレタンに過ぎない。弁当箱だからそんな小品が52個ほど展示されている。近くの画廊のオーナーが、写真で見たらわざわざ見に行くほどのものではないと言っていた。いや、やっぱり見た方が少なくとも経験値が上がって良いと思う。
 ギャラリーに会田が書いたちらしが置かれていた。そのちらしから。
 2001年横浜トリエンナーレの搬入作業中に支給された弁当を食べ終わったあと空き箱を見て、絵画のアナロジーを感じた(限定された四角い枠、仕切りと配置、具体的にはモンドリアンとの類似)。
 発泡ウレタンは(……)2液混合タイプを使うと様々な表情を表すことができ、「筆触」の大袈裟な代替物になることがわかった。
 展覧会タイトルは岡倉天心が英語で書いた『茶の本』からの引用。国家・社会・歴史といったマクロなものに対して、個人・芸術・茶室(小ささ、狭さ)といったミクロコスモスの優位性、実質的大きさを説いた本と理解している。このシリーズの精神を代弁してもらった。
 そして「参照したアーチストの一例」として挙げられている項目が面白い。

マルセル・デュシャン→使い捨て弁当箱という前提、レディメイドとしての大量生産工業製品。
ゲルハルト・リヒター→具象画と抽象画の分離。
ジャクソン・ポロック→重力と偶然にかなり依拠したドリッピングという技法。
河原温→作品サイズ、展示スタイル、方法の限定。
ゲルハルト・リヒター、白髪一雄、デ・クーニング、中村一美など→絵画の分析それ自体の提示。
村上隆、ロイ・リキテンシュタインなど→本物の筆触ではないという意味で、人造的な絵画技法。
★ジェフ・クーンズ、ダミアン・ハーストなど→アートマーケットを小馬鹿にしたような姿勢。―など。

 いつもながら面白いコメントだ。どこまで本気か分からないが、本質を衝いてもいるとも言えそうだ。会田誠、よく勉強しているし、頭脳明晰な画家だと思う。「アートマーケットを小馬鹿にしたような姿勢」はまさに会田そのもので、個展やグループ展でもしばしばおちょくったような作品を展示してきた。昔東京ステーションギャラリーで「期待される若手たち」のようなグループ展があったときも、選ばれた若手作家たちがみな力作を展示していたのに、会田だけは工事用のブルーシートにガムテープをランダムに張り付けた「作品」を展示していたことがあった。
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会田誠展「はかないことを夢もうではないか、そうして、事物のうつくしい愚かしさについて思いめぐらそうではないか。」
2016年7月6日(水)―8月20日(土)
11:00―19:00(日月祝休み、8月7日−15日休み)
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ミヅマアートギャラリー
東京都新宿区谷田町3-13
電話03-3268-2500
http://www.mizuma-art.co.jp
地下鉄市ヶ谷駅5番出口から徒歩5分