グレッグ・イーガン『TAP』を読む

 グレッグ・イーガン『TAP』(河出文庫)を読む。編訳者の山岸真があとがきで書いている。

……〈SFマガジン〉創刊700号記念のオールタイム・ベスト投票(2014年7月号発表)では、海外作家部門で第1位、海外短篇部門で「しあわせの理由」が第2位になったのをはじめ、長篇・短篇あわせて多くのイーガン作品が上位に名をつらねた。1990年代以降に頭角をあらわした作家としては、テッド・チャンとともに突出した高評価であり、このふたりを現役最高のSF作家とする声もある。ことにハードSFと呼ばれるタイプの作品に関しては、いまやイーガンが英語圏での第1人者といっていい。

 本書は10の中短篇からなっている。しかし、上記引用に続いて山岸が書くように、「本書の収録作に、”ガチガチのハードSF”はない」。世にも奇妙な物語とかホラーとかに分類されるような作品が並べられている。イーガン得意のハードSFではないので、これで云々するのは酷な気もするが、表題作の「TAP」では、脳内に埋め込まれたチップによって完全ともいえる表現が可能になる。そのチップ=トータル・アフェクト・プロトコル(TIP)をインプラントした詩人が亡くなり、娘が死因を疑って殺人者を追求しようとする。
 TIPをインプラントするということが何を意味するか、それがどのような社会的影響を及ぼすか、イーガンは詳しく語っている。佐野洋子も言うように「細部のリアリティーを持たねばホラ話は死ぬ」。だから読者としてはうっとうしいが、これを省くことができない。しかも殺人はそのTIPの操作によって起こっていた。
 普通のミステリなら、TIPのような未来社会の小道具(大道具?)なしで話が進められる。なんだか余分な手数がかかっている印象が強い。しかし、SFにとって、このことこそがツボなのだから、我慢して読まねばならない。ということで、私はグレッグ・イーガンをあまり評価できないのだった。そんな大口を叩けるのも、ついスタニスワフ・レムを対照してしまうからだ。大森望も『21世紀SF1000』(ハヤカワ文庫)で言っている。「レム的思考を現在に受け継ぐのがイーガンだけど、さすがに貫禄ではレムにかなわないかも」って。レムは難解な設定を面白く楽しく書いてしまう。レムの泰平ヨンシリーズなんかは、ドタバタ劇でありながら、深遠な哲学が語られているのだから。


TAP (河出文庫)

TAP (河出文庫)