『不屈に生きるための文学講義』を読んで

 大岡玲『不屈に生きるための文学講義』(ベスト新書)を読む。カバー袖の惹句から、

ビョーキなほど本の「偏愛者」である作家、大岡玲が体当たりで描く「名作文学のトリセツ(取扱説明書)全25講。

 最初に『少年ジャンプ』と『ONE PIECE(ワンピース)』から始まる。それから『宝島』、『坊っちゃん』と続く。そして『赤と黒』からルソーに進む。この展開は何だろうと思ったら、元々受験生向けの講座を開いているZ会のオフィシャルサイトで連載されていたものに加筆修正して新書化したものだという。それで分かりやすく、ていねいな解説と、読者に過剰に寄り添った文体が選択されているのだった。『赤と黒』を語るとき、こんな具合に・・・

 つまり経験豊かな年上美女(ヒトの奥さんだったら、スリル満点でモア・ベター!)に恋の手ほどきをしてもらい、彼女からすべてを学びとったら、哀切にして余情ある卒業をし、うふふ、今度は年下の美女だ! って、ほんと、ボコボコに殴られても仕方ない大バカ妄想。

 でも本当にていねいで分かりやすい。お大岡玲っていうと、以前NHKの『日曜美術館』に出演していて、いつもにこにこして毒にも薬にもならないおしゃべりをしていた印象があった。むかしジャスパー・ジョーンズが家によく遊びに来てました、なんて嬉しそうに言ったりしていた。でもやっぱり芥川賞をもらった作家だから、いろいろ教わったし、楽しく読むことができた。「大ヘンタイ文豪・谷崎潤一郎」とか、「谷崎に決して劣らない川端(康成)のヘンタイ度を考えると複雑な気分になってしまう」などと書くのは高校生向けのサービスなのかもしれない。
 イタリアの作家、デ・アミーチスの児童文学の名作『クオーレ』についても初めて知った。読んだこともなく、少女向けの児童文学くらいにしか思ってなかったが、19世紀イタリアの国家の統一意識を高めるために書かれた要素が強いらしい。イタリアファシストムッソリーニが強烈な愛読者だったという。
 阿木燿子作詞、山口百恵が歌った「水曜日のクオレ」の歌詞は、「ページをめくる音だけが/静かに響く図書室で/おんなじ本を 二人して/夢中になって読んだものです//クオレ クオレ/あなたは覚えていますか//クオレ クオレ/無邪気で幼い あの頃//私達の一番お気に入りの 童話のことを」となっていて、無邪気な童話だと思い込んでいた。
 いま同時に『自選 大岡信詩集』(岩波文庫)も読んでいて、これって一種の親子丼かなあとふざけたことも一瞬頭をかすめたのだった。