新宮一成『夢分析』(岩波新書)を読む。冒頭、空飛ぶ夢は幼児が言葉を初めて話すようになった経験を反映していると唐突に語られ始め、その裏付けもはっきりとは示されておらず、ちょっと眉唾かなあと読み始めた。
新宮は様々な夢の例を示し、それらを読み解いていく。その一例が紹介される。社会のために努力する志を立てつつあった若い男性の夢だ。
〈一盛りの肉の夢〉
先輩がある文学賞を受けたようだ。選考の対象になった論文を見せてもらった(古い装丁、漫画のよう、鬼が出たよう、宗教画のよう)。
そのとき、なぜか私は、風呂に入ろうとしていた。裸になって、湯につかろうとしていた。
賞品に、一盛りの肉(生の肉、すこし気味が悪い)をもらったらしく、祝いに来た二人ほどの男女は、街に出て、これを料理して食べさせてくれるところを探していた。二人は比較的大きな焼き肉屋に入った。この夢の中で初めに動いていた自分は、第三段階に入ると、突然いなくなる。そして、かわりに現われてくるのは「一盛りの肉」である。この肉は「賞品」であり、社会的価値を体現している。彼自身が、この肉へと変化したのである。第二段階での、湯に入るという彼の身体の運動は、第三段階での、肉が焼き肉屋にもちこまれるという運動へと転化した。そして肉を受け取った二人の男女は、両親を表していると考えるとよいだろう。両親は、彼という存在を、高い価値をもったものとして受け取り、これからその価値を開花させるべく、それを手にして適当な場所を探しているところなのである。彼らの行動は、子どもを育てる両親の様子として理解できる。
夢を見ている彼自身の視点は、この両親に同化しており、彼は自己の存在の価値を、両親という他者の視点で享受している。(後略)
ついで、決まった「型」をもっているためにフロイトによって「類型夢」と呼ばれた夢について語られる。建物は、類型夢の象徴作用によって、女性の身体を表現する。妊娠が「虫にたかられる」ことによって表現される。「洪水」も類型夢の一つで「尿排泄象徴」として知られている。誕生のモチーフは「水から出る夢」として表われる。夢の中での「橋」は「つなぐもの」としての男性性器を象徴することが多い。
また「三」は「ファルス」の象徴であり、「四」は「結婚」の象徴となる。ある女性の見た夢が分析される。
〈三基のエレベーターと「4」のゼッケンの夢〉
はじめの場面ではエレベーターが三台あって、そのうちの、真ん中に乗るが、上がったり下がったりするので気持ちが悪くなる。
次の場面では、男の人が運転する車に乗っているのだが、運転がとても乱暴で、しかも運転する彼は、半分立ったような中途半端な座り方をしている。ふと見ると、彼の背中には、「4」と書いたゼッケンが付いていた。この夢の意味については、連想がなくとも、類型夢論からだけで次のことがわかる。はじめのエレベーターの場面では、「三」を用いて肉体関係が表現されている。そして次の場面の「4」という数字は、彼女の頭の中に「結婚」という観念があることを示している。この数字をつけている男の人の腰が落ち着かない。すなわちこの夢からは、結婚という問題に関して、この相手の男性の態度がまだはっきりしないなと、彼女が思っていることがうかがえるのである。
最初、読み始めたとき、なんだか眉唾っぽいなあと思ったのに、読み進むうちに、新宮の夢の分析に感動すら覚えてしまった。とても面白い本だった。ほかにも新宮の著書を読んで見たいと思ったのだった。

- 作者: 新宮一成
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/01/20
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