戦後日本の風俗の劇的な移り変わり

 シャルル・アズナブール来日公演というポスターを見かけた。92歳だという。アズナブールというと思い出すことがある。むかし、私が高校生のころ、やはり彼が来日して公演を行った。テレビにも出演してそれを見た記憶がある。一番強く印象に残ったのは、歌いながらズボンのポケットに手を入れていたことだった。マイクを持って舞台を歩き回りながら歌い、片手をズボンのポケットに入れていた。歌もうまくてそれも印象に残ったが、何よりもポケットに手を入れていたのが衝撃的だった。それまで学校(小学校とか中学校)で、ポケットに手を入れていてはいけないって言われて育ったから。素直な子どもだったのだ。
 20歳のとき東京へ来ていろいろ驚くことが多かった。その中でも強く印象に残ってまだ憶えているのは、外人が歩きながら物を食べている姿だった。あれは渋谷駅近く宮益坂の下あたりだった。英米系の若い女性が歩きながらリンゴをかじっていた。これにはだいぶ驚かされた。47年前ころ、歩きながらものを食べている日本人はまず一人もいなかったと思う。短期間でずいぶん変わったものだ。いつの間にか私も歩きながら物を食べることが稀ではなくなっていた。
 しかし10年以上前に、女子高生が道を歩きながらカレーライスを食べているのを見たときは驚いた。片手に皿を持ってスプーンを使って食べながら歩いていた。知人の大学教授が講義中ペットボトルから飲み物を飲んでいてもそのままにしているが、さすがにカレーを食べているときは注意して退出させた、匂いがしますからと言っていた。
 さらに最近は電車の中で着替えをしたり体のムダ毛を剃ったりしている例まで新聞の投書で報告されている。

 JRの電車内で、あり得ない光景を目撃しました。ほぼ満員の車内に乗り込んできた学校帰りらしい2人の女子高生が、空いていた席にカバンを置くなり、その場で服を着替え始めたのです。
 2人とも、隣りに座っている男性や周囲の目もおかまいなし。立ったまま、自分の姿が映る窓を鏡のように使っていました。まず、学校指定と思われるセーターの下から、袖をうまく抜いてロングTシャツを脱ぎ、次いで頭からおしゃれなセーターをかぶってそれに着替えます。さらにひざ丈が長い制服のスカートの上からミニの制服調スカートにはき替えるのです。終わると、2人ともおしゃべりしながら化粧を始めました。(後略)

(上記の投書)に、私が3年前、JR上越線の車内で見た光景を思い出しました。ある平日の夕方、長岡での買い物帰りに乗った普通電車に、小千谷駅から女子高生2人が乗り込み、1人が私の向かいに座り、1人は立ちました。
 座った方の女子高生はバッチリ化粧した美人でした。座るとすぐにかばんからカミソリを取り出し、少しかがんだり体の向きを変えたりして足のすね毛を剃り始めました。次にスカートの裾をたくし上げ、器用に太もものムダ毛を剃りました。さらに両腕のムダ毛。最期にかばんから手鏡を取り出すと、立っている友達に手鏡を持ってもらって、顔の毛を剃りました。
 その間約15分。(後略)

 いずれも朝日新聞の投書で、2011年2月に掲載された。戦後70年、これからもびっくりするくらい変わるのだろうか。