日本橋高島屋X画廊の重野克明 銅版画展「おしゃれ野郎の告白」を見る

 東京日本橋高島屋の6階美術画廊Xで重野克明 銅版画展「おしゃれ野郎の告白」が開かれている(3月21日まで)。重野は1975年千葉市生まれ、2001年に東京芸術大学油画専攻を卒業し、2003年に同大学大学院版画専攻を修了している。2000年に東京銀座の青樺画廊で初個展、以来77ギャラリーや高島屋美術画廊Xなどで個展を繰り返している。
 重野の版画はユニークで大変ユーモラスだ。今回も版画作品の横に「溺れた時に魚になりたいと思うのか」とか、「男で死にたい」とか、「水戸のルドンと呼ばれて」など面白い言葉が書かれている。大きな文字で「ゲロ」とだけ描かれた作品もあるし、サインの練習という作品は画面中にサインらしきものが書き散らされている。「本当の野菜炒め及び肉じゃがのつくり方」というタイトルの作品は、文字通り料理のレシピを手書きしたものを版画作品化したように見える。
 それで思い出すのは、2014年の養清堂画廊でのグループ展「王道か異端か。」で展示されていた作品のことだ。なかに1点文章だけの作品があった。なんだか手紙のようだったが、鏡文字になっていて読めなかった。気になっていたら、誰かがその作品を撮影してFacebookに紹介していた。それをダウンロードしてPhotoshopで反転して読んでみた。なんと! もう亡くなった美術評論家の鷹野明彦氏から重野に宛てた私信(2008.8.29付け)をそのまま版画の下絵にしたものだった。その一部を記してみる。

重野くん。前橋の実家に行った折りに、頂いたDMの個展会期が重なったので、ようやくセントポール・ギャラリーの個展を観ることができました。同じ街といっても、実家とギャラリーはJRをはさんでちょうど真反対なので、思ったより遠かった。新作は77ギャラリーで見て日もそう経たないうちだったが、旧作も混じえて銀座とはまたちがった時間のなかでじっくり近年の経過も含めて、その世界を見つめられたようでした。あらためて、ユニークなユーモアのセンスや新作に到っての個性の開花が好ましく映りました。それで1点買ってみようという気にもなって(この辺が東京の場合とちがう気分である)ストック分の旧作も見せてもらったわけですが、家に飾るつもりで1点決めるのは、結構むつかしい。(後略)

 これは重野の亡くなった鷹野へのオマージュだろう。鷹野の手紙を作品化することによって、鷹野との交流をはっきりと刻印しておきたかったのだろう。重野の鷹野への真摯な敬愛が感じられてとても好ましい。

 写真は今回の個展のパンフレットの一部だ。作品名が左上から下に「敗北のロマンチック」「朝の練習」「55世紀のエンジェル」「春風クロール」、右上から下に「本当の野菜炒め及び肉じゃがのつくり方」「手羽・愛」となっている。とても良い版画展だと思う。見に行かれることをお薦めする。
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重野克明 銅版画展「おしゃれ野郎の告白」
2016年3月2日(水)→3月21日(月)
10:00〜20:00
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高島屋日本橋店6階美術画廊X
東京都中央区日本橋2−4−1
電話03−3211-4111