『芸術脳の科学』を読む

 塚田稔『芸術脳の科学』(講談社ブルーバックス)を読む。副題が「脳の可塑性と創造性のダイナミズム」。題名から創作が生まれる脳のメカニズムが書かれていると思って読み始めた。「第1章 脳と創造」「第2章 再現的世界の役者たち――特徴抽出」「第3章 情報創成の役者たち――学習と記憶」。この3章までが全体の3分の2にあたる。ここまで一般的な脳の働きのメカニズムについて解説されている。
 「第4章 脳と絵画」、やっと知りたい世界に入っていくと期待した。具体的に分析されるのは、モナ・リザ、モネの睡蓮、セザンヌゴッホシャガール、ダリなどだ。それにしても特段目新しいことが語られるわけでもない。
 最後の「第5章 筆者の絵画と音楽とダンス」となり、塚田の7点の絵がカラー図版として挿入され、塚田自身および評論家山口知子、中野中、小出龍太郎によって解説されている。塚田は玉川大学脳科学研究所名誉教授であり、また日本画府洋画部門専務理事、審査員を務めている。美術における受賞も多数得ているという。
 公募展の審査員を務めており、工学博士、医学博士の資格を持っているだけあって、よく構想された作品に思える。近代西洋絵画に土着的な要素を取り込んだ作風を示しているように思える。もっともそのこともすでに近代西洋絵画が成し遂げたことなので、塚田自身の独創というわけにもいかない。塚田作品についてはそれなりの水準を示してはいるものの際立った個性を表しているとは言いがたい。
 総じてあまり有意義な読書とは言いかねた。索引と参考文献を除くページ数は186ページ。図版が大きくまた多くて全体で50ページ弱を占めている。すると扉を含めて本文は140ページ程度となってしまう。もともと原稿量が少なかったので、図版を大きく扱ってボリュームを確保したのだろう。だから1日もかからず読み終えてしまった。あまりお勧めできる本とは言いかねる。