小田久郎『戦後詩壇私史』を読む


 小田久郎『戦後詩壇私史』(新潮社)を読む。著者は『現代詩手帖』を発行している思潮社の社主。戦後からほぼ20年後までの詩壇の歴史を綴っている。優れた戦後詩の記録だ。小田は多くの詩人たちの記録、エッセイや雑誌記事などを引用し、自分の主観的記載ではなく、数多くの詩人たちの記録をモンタージュのようにつなぎながら本書を構成している。
 神田の裏町に昭森社の古いビルがあった。昭森社は森谷均が経営する出版社で一人で詩集などを作っていた。そのビルへ伊達得夫が転がり込みやはり一人で書肆ユリイカを設立する。現在の『ユリイカ』は伊達が亡くなったあとに青土社が発行していて伊達とは別の会社だ。その後小田久郎も同じビル、実は同じビルの2階の1室にこれまた転がり込み、やはり一人で思潮社を始める。木造の狭い部屋に3つの出版社が机を並べたのだ。しかしこの3社が戦後の詩集の出版社として大きなシェアを有していたのだった。
 そのような小田が戦後詩の歴史を語るのはまさに適任だろう。事実個々の詩人の動向を始め同人誌の盛衰、詩の傾向の流れ、時代との絡み、結社の変貌などがよくわかる。代表的な詩も引用されている。数々のゴシップも語られる。これ1冊で戦後20年間の詩の歴史の集大成になっている。。
 50年前高校生の頃、図書館で現代詩のアンソロジーを読んだことがあった。その出版社が昭森社だった。その時もその後もあまり聞いたことがない出版社だと思っていたら、現代詩では草分けの重要な出版社だったことを知った。
 巻末の年表も充実しているし、なにより人名索引がすばらしい。900名近くの関係者の名前が拾われている。四六版8ポ2段組み460ページ、400字詰め原稿用紙に換算して1200枚にもなる。雑誌に連載したというがきわめて重量級の仕事だ。
 この続編が書かれればもう言うことはない。たったひとつ小さな不満は表紙デザインだ。瀧口修造装画、新潮社装幀室装幀となっている。批評家としての瀧口はともかく、画家としての瀧口を評価することはできない。


戦後詩壇私史

戦後詩壇私史