SF小説『火星の人』を読む

 アンディ・ウィアーのSF小説『火星の人』(ハヤカワ文庫)を読む。古い友人のS君が面白いからと貸してくれた。彼は高校生の頃からのSFファンで、たくさんのSF小説を読みこなしていて、その推薦なら外れがない。
 本書は火星に降り立った6人の探査隊がわずか6日目にして猛烈な砂嵐に巻き込まれ、うちひとりの隊員ワトニーが砂嵐の中へ吹き飛ばされ、生体反応もなくなって死亡したと見なされて取り残される。残り5人の隊員たちは火星を離れ地球への帰還の途につく。しかしワトニーは生き延びていて、地球をはるか離れた火星でロビンソン・クルーソーのように生きていく。
 以前の探査機が残した通信設備を見つけて地球と交信したり、それが事故で壊れてまた音信不通となったり、さまざまな困難を乗り越えていく物語。
 私は高校生のころSF小説を知って、しばらくは夢中で読んだことがあった。だが地方の高校の図書室も飯田市立図書館もSFの蔵書はきわめて少なく、自分で買い求めるには小遣いが足りなかった。
 そんな多くない経験だったが、個人的にSFをいくつかのジャンルに分類していた。ハインラインのような未来世界をまるで現実の世界のようにていねいに語るタイプ。A. C. クラークのように大きな宇宙論を語るタイプ。そしてその他の奇妙な作家たち。スペース・オペラは最初から問題外として除外していた。奇妙な作家たちの中から哲学的な宇宙論、人間論を語る者たちを見つけた。当時はスタニスラフと紹介されていたスタニスワフ・レムであり、ストロガツキイだった。
 その分類に戻ると、『火星の人』はハインラインのタイプだと思った。火星でひとりで暮らす日常生活がていねいに綴られていく。驚嘆するような天変地異や宇宙人などは現れない。なかなかおもしろく読んだのだった。ただ、とくに大事件が起こることのない600ページ近い分量は多少冗長の印象がなくはない。もっとも火星でひとりで暮らす1年半以上の日常を描くというのが本書の売りでもあるのだから、それを言うのは無い物ねだりかもしれない。
 アメリカではさっそく映画化も決まったという。映画にしたら面白くなるだろう。

火星の人 (ハヤカワ文庫SF)

火星の人 (ハヤカワ文庫SF)