毎日新聞の書評欄に連載されている「昨日読んだ本」というコラムの今日(5月3日)の筆者は将棋棋士の先崎学だった。先崎は3冊の文庫本を取り上げている。
『イグ・ノーベル賞 世にも奇妙な大研究に捧ぐ!』(講談社+α文庫)はたしかに笑えるし、考えさせられる。大暴動の時のロス市警本部長に「人々を見事に団結させた」として平和賞を贈ったりとブラックな一面があるのもよい。
そのような笑える研究をちょっぴり細かく解説したのが『博士たちの奇妙な研究』(文春文庫)である。すんごくマトモな本物の科学者たちが、エイリアンの遺伝子を探して悪戦苦闘してみたり、「人工幽霊屋敷」を作ろうと努力したり。(中略)
さて、ちょっとでも科学たるものおふざけはアカンというヒトにおすすめなのが『人間はどこまで耐えられるのか』(河出文庫)である。人間という種の単純な限界を研究した本書は読み易く素晴らしい。ヒトって、どのくらい高く登れるの? 暑さ寒さにはどのくらい耐えられるの? などという素朴な疑問に対し、完全に科学的なアプローチで、時には著者(オックスフォード大の教授)自ら体を張って答えを求める姿は感動的ですらある。でもやっぱりクスリとしてしまう。(後略)
この先崎学という将棋棋士は、私にとっては何より「小博打のススメ」(新潮新書)という本の著者なのだ。むかし一度紹介したことがあったけれど、もう8年も前になるので再録する。
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先崎学『小博打のススメ』はすごい
私は競馬もパチンコも麻雀もしない。若いころ勤めていた職場では、博打が流行っていた。ちんちろりん、丁半、おいちょかぶ、この内おいちょかぶだけやった。少しだけだが。
プロ棋士の先崎学八段は博打が好きらしく『小博打のススメ』(新潮新書)という本を書いていてこれが滅法面白い。いろいろな博打を紹介して、そのやり方を解説している。警察に踏み込まれたときの対処法まで書いてある。
内容は、麻雀、それに3人でやる麻雀サンマ。サイコロを使う博打は、ちんちろりん、たぬき、きつね、ちょぼいち。トランプを使うポーカー、オール。花札を使うおいちょかぶ。博打の最高傑作という手本引き、この手本引きが現在裏社会ですら行われなくなったのは、裏社会中の裏社会、つまり「その筋のヒト」御用達のゲームだったからだという。カジノではブラックジャック、ルーレット、大小、バカラ。最後が将棋。これだけの博打=ゲームについて詳しく遊び方を解説しているのだ。棋士って何て遊び人なのだろう!
手本引きの解説をしている中で、警察に踏み込まれたときの対処法を紹介している。
健全に楽しむということは、安心して楽しめるということである。そのために、ふたつ守っていただきたいことがある。ひとつは、知らない人間はできるだけ仲間に入れないこと。なんだかんだいっても、現実に危い博打であることに変りはないのだ。入れるとしたら、メンバーの中の信用できる人間の紹介があった時のみにすること。ふたつめは、部屋にノックがあったら、必ずドア越しに顔を確認すること。ありえないことだが、万が一警察だったら、変にバタバタせず、あらかじめ用意した部屋の小さなかごに、場に出ている金を1円玉まで全部入れること。こうすれば警察は手も足も出ません。
残念なことだが、個人の家でやっていて、警察が来るというのは、メンバーのひとりが「売った」ということである。そういうような雰囲気を作らないことが望ましいが、いざという時の対処法は知っているにこしたことはない。とにかく表にある現金はひとまとめにして、「これはゲームの迫力を出すためのかざりです」といえばいいのである。もうすこしいえば、「そうはいっても大人なんだから少しぐらい賭けていただろう」というようなことをいわれた時に「いいえ」と無駄なく一言でいうのが大事である。
そう言えば、浮気の現場に踏み込まれたときは、まだ入れてないとか、指しか入れてないと言うのが有効だと聞いた。
得意先が外資系企業の部下から、「購買担当の人がやたら詳しくて、あんたの会社の見積もりは普通よりXX%高いよと言われました。実はXX%掛けているのですと言ってしまっていいですか」と聞かれた。駄目だと答えた。肯定すれば事実になってしまう。肯定しなければ、曖昧のまま宙に浮いている。
先崎学は12歳で麻雀を覚えたという。13歳で雀荘にデビューし、それからはお決りの麻雀ザルで連日連夜麻雀を打った。気っ風のよいオバチャンの店で「ビール」というと、「アンタ、高校生でしょ、駄目よ」というオバチャンに私は正直にいった。「いや、実は中学生なんです」。オバチャンはポカーンとして、黙って私にビールをついだ。「もう知らない。アンタ勝手にやりなさいよ」
この人本当に筆が立つ。棋士にしておくのがもったいない。
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