山本弘のこと

 友人から、お前、山本弘さんのことを語るとき、いつも他の人の評価を紹介するけど自分の意見を言わないね、と言われた。そうか、気づかなかった。
 友人相手であれ、山本弘について普段話すことはない。話すのは山本の個展の時だけかもしれない。その時、おそらく客観性を持たせたいと思うことと、販促のために権威を借用したいと考えて有名な美術評論家の評価を引用しているのだろう。もちろん自分の意見がないはずがない。それをこれから語ってみたい。
 山本弘は類い稀な優れた画家だと思う。長い間多くの画家たちの絵を見てきて、私はそれを確信している。おそらく戦後日本の画家では最も優れた一人だろう。
 山本はしばしば長谷川利行に比べられる。それは尤もなことだ。山本は長谷川が好きで、長谷川の厚い画集を持っていて、何度かその画集の作品に触発された絵を描いている。黄色い顔をした女の顔とか、乳牛の絵とか。筆触についても影響を受けていたと思う。生活もよく似ていた。アル中で酒に溺れ、デカダンの日々を送っていたところまでそっくりだった。
 山本の絵は長谷川利行に似ている。それは事実だ。しかし、似てはいても山本の絵ははるかに洗練されている。長谷川は色彩がきれいだと言われるが、同時にそれは濁ってもいる。山本の色彩は本当に優れたもので、他の追随を許さないほどのレベルだ。色を重ねても長谷川のように濁ることがない。
 長谷川は、とく大きな作品において構図が弱いという弱点を示すのに対して、山本の作品の構図は堅牢だ。
 筆触の美しさも比類ない。アンフォルメルに影響された作品があるが、筆触だけで見事な画面を作っている。
 山本は描きながら作品を作るタイプではない。一挙に仕上げてしまう。複雑な構成の作品を、試行錯誤することなく何の迷いもなく一挙に仕上げている。それは天才と呼んでもよいレベルだ。
 さらに作品の傾向も多様さを示している。同じ様な作品を作らない。具象と抽象のあわいで仕事をしている。子供を描いた穏やかな絵から、きわめて難しいほとんど抽象そのもののような作品まである。その作品を理解するまで私も20年近くかかったものまである。山本の作品を見たあとでは、難波田龍起の作品がマンネリで創造性に欠けているように見える。
 山本弘は今はまだ無名に近い存在かもしれない。しかし、その比類ない画業は確実に評価されるだろうし、美術史に残る数少ない画家であることを疑うことができない。
 私は山本弘未亡人から委託されて、販売するために山本の油彩を100点以上、江東区勝どき駅近くの倉庫に保管している。ときどき画商さんに依頼して個展を企画してもらっている。もし興味をもってくれる方がいれば私あてに連絡をとってほしい。倉庫までお出でいただければ作品をお見せすることもできるだろうし、数点だったら指定の場所まで持参することもできるだろう。連絡は下記へメールされたい。
  mmpolo48★gmail.com (★を@に変えて送信)。
 これらは、いずれも1970年代の10年足らずで描かれた。


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山本弘「日だまり」

山本弘「種畜場」

山本弘「黒い丘」

山本弘「流木」

山本弘「柴塀」