東京目白のタリオン・ギャラリーTALION/GALLERYで友政麻理子の映像作品「近づきすぎてはいけない」が公開されている(2月8日まで)。友政は1981年東京生まれ、2004年に東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻を卒業し、2007年に同大学大学院美術絵画専攻を修了、2012年に同大学大学院美術博士課程を修了している。2005年にフタバギャラリーで初個展、その後2011年に藍画廊で新世代への視点展、2012年に水戸芸術館クリテリオム、昨年はここタリオン・ギャラリーと台北のギャラリーで個展を開いている。
今回上映されている「近づきすぎてはいけない-Have a meal with Father-」は45分間の映像作品。友政がアフリカのブルキナファソを訪ね、現地の中年男性と二人で食事をするだけのもの。ブルキナファソの宗主国はフランスだったので、彼は現地語とフランス語を話す。友政はフランス語ができないので、二人はおぼつかない英語で会話をしている。話題は二人が食べている料理について、有機農法の作物だとか、特性のソースだとか、家族が一緒に食事することとか、ある意味他愛のない事柄だ。しかも二人とも得意ではない英語で話しているので、複雑な話題をテーマにするのが難しい。友政は宮沢賢治の詩を話題にするが、宮沢は詩人だと説明したいのに詩人poetの言葉が出なくて、poemを作る人なんて言っている。それでも彼がフランスに留学しているときにフランス女性と一緒に住んで子どもが産まれ、でもブルキナファソに帰国したとき別れて子どもはフランスにいるとか、子どもが訪ねてきたとき食べ物がおいしいと喜んだとか、友政のお母さんが教師だったとかが語られる。もし、二人の会話の要旨を文章にまとめたら数ページで済むだろう。
すると、映像のほとんどは「本質」から見たら無駄に思える。しかし、延々と続く食事中のおしゃべりを見ていると、この「無駄」が豊かなものであることが分かってくる。無駄な時間、ゆるい時間が大切なことに気づくのだ。テーブルに並べられたビールびんや鳥の料理、窓外の光やおぼろに見える風景など。それらが映像の豊かさを支えている。
場面はレストランかどこかで食事をしている二人を横から撮っている。カメラはおそらく3台で、二人、友政、男性が交互に写される。そのシーンはポルトガルの監督マノエル・デ・オリヴェイラの映画『夜顔』を思い出す。『夜顔』は、ルイス・ブニュエルがカトリーヌ・ドヌーブを主演に監督した映画『昼顔』へのオマージュで、その40年後を描いている。ミシェル・ピコリとビュル・オジエがレストランで二人で黙々と食事をするシーンが印象的だった。やはり真横から食事のシーンを撮っていた。友政もデ・オリヴェイラへのオマージュを意図しているのだろうか。
私は銀座の藍画廊に勤務する友政を少しだけ知っている。藍画廊で個展をしている作家について二言、三言話すだけで、個人的な話をしたことはない。だから、知人故のひいき目はしていない。ドラマ性も希少で映像的にも美しいシーンがあるわけではないこの作品が興味深く楽しめたのは、純粋に作品の力だったと断言しておきたい。45分と長い映像作品で、ループ状に繰り返し上映されている。上映途中で入ってもおそらくほとんどストレスはないだろう。どこから見ても楽しめるはずだ。
帰宅してから、美術出版社発行のパンフレット『ART NAVI』2015.1.17号を見たら、友政の作品について詳しい紹介が載っていた。
「父と娘になるために」
1人の女性が、父親と思しき男性と和やかに食事をする映像。ここには、「食事のあいだは父と娘になる努力をする」というルールに基づく、暫定的な親子の姿が映し出される。映像に出演する友政麻理子は、2000年より本作「お父さんと食事」を制作。TALION GALLERYで1月に開かれる個展では、本シリーズの新作を展示する。
かりそめの父娘関係の中で、友政はコミュニケーションにおける「型」に着目する。「私と男性は、各々が持つ『父娘』の曖昧なイメージを手がかりに、『父娘』の関係性に自分を適応させようとしていました」。彼女はそんな関係性への試行に「型」を見いだしてきた。例えば、言葉が通じない地域において、声の響きや表情を駆使し、体全体を使って相手と関わりを持とうとする姿。映像の中では、言語に代替しうるものによってつながろうと試みる両者の姿が「型」としてしばしば映し出される。(後略)
・マノエル・ド・オリヴェイラ監督「夜顔」(2008年1月3日)
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友政麻理子「近づきすぎてはいけない-Have a meal with Father-」
2015年1月10日(土)−2月8日(日)
11:00−19:00(月曜・火曜・祝日休廊)
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タリオン・ギャラリーTALION/GALLERY
東京都豊島区目白2-2-1 B1F
電話03-5927-9858
http://www.taliongallery.com/
JR山手線目白駅より徒歩8分
東京メトロ副都心線 雑司ヶ谷駅より徒歩2分
(千登世橋近く)