10月19日の新聞書評

 もう20年近く、毎週日曜日は3つの新聞を手に入れて書評を読んでいる。丸谷才一自画自賛していたように、3大紙では毎日新聞の書評が最も優れていると思う。少し落ちて朝日新聞、その次が読売新聞の書評だ。一時、日経や東京新聞も買ってみたが、日経は経済偏重の気味がうかがえて、東京新聞はたしか2ページしか書評に充てられていなくて、やっぱり3紙だけに戻ってしまった。ページ数で言えば朝日が4ページなのに、毎日も読売も3ページしか充てられていない。それにも関わらず毎日が最も充実している。
 毎週気になった書評を切り抜いて保存している。読みたいと思うのをそうするのだが、単に参考のために切り抜いているのもある。購入しても実際に読むのは何年も経ってからというのもある。
 今回(10月19日)の書評で気になって切り抜いたのが8冊もあった。先週は0、先々週も2冊くらいだったのに。内訳は毎日新聞が6冊、読売新聞が2冊、朝日は0だった。
川田順造『〈運ぶヒト〉の人類学』(岩波新書):書評は中村桂子
 アフリカで誕生した新人(ホモ・サピエンス)の特徴を、これまで「作るヒト」とか「遊ぶヒト」とか言ってきたが、川田は「運ぶヒト」だと提案している。川田は、日本、西アフリカ、フランスを往来して3つの分化を比較してきた。そこからこの考え方を発見したようだ。
渡辺京二『無名の人生』(文春新書):書評は井波律子
 渡辺の『逝きし世の面影』は大変面白かった。その渡辺の語りおろしエッセイで、自分の半生を綴っているという。これは読みたい。
杉本秀太郎『見る悦び』(河出書房新社):書評は湯川豊
 俵屋宗達ゴーギャンを論じていてユニークらしい。ちょっと興味を抱いた。
角岡伸彦『ゆめいらんかね やしきたかじん伝』(小学館):書評は中島岳志
 やしきたかじんの父は在日コリアンだったという。たかじんは父の出自に悩み、それを一切公開しなかった。それが橋下徹に接近し、安倍晋三を盛り立てた。出演する番組でゲストから在日コリアンへの心無いコメントが発せられても何も言わなかった。そんな彼の伝記を読んでみたい。
・佐藤一進『保守のアポリアを超えて』(NTT出版):書評は松原隆一郎
 保守主義を1790年のエドマンド・バークから掘り起し、共和主義を補助線として、現代にいたる流れを整理しているという。発行元のNTT出版は大きな会社だとは思えないが、書評で取り上げられる頻度が半端ではない。誰か優れた編集者がいるのだろう。
・マリオ・プーヅォ『ゴッドファーザー』(ハヤカワ文庫):書評は長田弘
 ランペドゥーサ『山猫』の映画と小説を推薦し、併せて『ゴッドファーザー』も映画と小説を推薦している。『山猫』はどちらも読んで見たが、『ゴッド〜』は小説は読んでないから。
 以上が毎日新聞の書評。ついで読売新聞。
・鳥飼玖美子『英語教育論争から考える』(みすず書房):書評は須藤靖
 鳥飼はたしか英語の同時通訳者だ。1970年代に行われた平泉渉渡部昇一の論争を再度取り上げている。平泉は、英語を義務教育の対象から外す、中学では欧米だけでなくアジア・アフリカの言語と文化の基礎を学ぶ、大学入試から外国語をなくすとまで言っているらしい。
 書評の須藤は東大の宇宙物理学者だが、エッセイが極めて面白い。須藤が推薦すればその本の面白さは保障される。
・片山洋次郎『生き抜くための整体』(河出書房新社):書評は石田千
 整体といっても、道具や体操服は不要。耳の軟骨をひっぱる、のどの筋肉に触れる、腕をさする、ぱたんと足を投げ出す。読みながら試すと、頭や首が軽くなり、あくびが出て、深く眠れたとある。これは読んで試さなきゃ。
 今週は豊作だったというべきか、また読まなきゃいけない本が増えてしまったというべきか。