『新編 日本語誤用・慣用小辞典』を読む

 国広哲弥『新編 日本語誤用・慣用小辞典』(講談社現代新書)を読む。本書は以前『日本語誤用・慣用小辞典』として同じ新書で発行した正編と続編を併せたものという。全5部から構成されていて、「意味の誤用」「表現の誤用」「語形の誤り」「漢字をめぐる諸問題」「誤用のようで誤用でない場合」からなる。これが興味深い内容だった。
 辞典とはいいながら、最初から全文読んでいって面白い。というか、自分にあまりにも誤用が多いのを知って驚いた。
 「おざなり」「なおざり」「いい加減」の3つの言葉の意味の重なりと違い。どのように使い分けるべきか。「故障中」という表現が不自然に響くこと。「このころ」と「このごろ」の意味の違い。「事実上」と「実際は」の異同。「すべからく」が「すべて」の意味に誤用されるようになった原因。「濡れ手で泡」は間違いで正しくは「濡れ手で粟」。「まじる」と「まざる」と「まぜる」。自分のことを「私は女の人」というのはおかしい。「人」には軽い敬意が含まれている。
 「……しない前に」は間違い。「ひとつ返事」は誤りで正しくは「ふたつ返事」。「赤飯」をていねいに言ったつもりの「赤御飯」は間違い。「お赤飯」が正しい。ラ抜き言葉についての分析は大変興味深いものだった。
 「恩の字」は誤りで「御の字」である。「均頭割り」は「均等割り」の誤り。「一段落」を「ひとだんらく」と読むのは誤り。「大地震」を「だいじしん」と読むのも誤り。「おおじしん」なのだ。「名人気質」は「名人きしつ」と読んではいけない。「名人かたぎ」である。
 新築の劇場の初めての興業を「柿落とし」だと思っていたら「杮落とし」だった。「こけら」は柿の漢字とは違うなんて知らなかった。柿はつくりが鍋蓋に巾で、杮の縦棒は上下を貫いている! 
 「怺え情無き」は「こらえじょうなき」と読むのに、翻訳家の柳瀬尚紀はその著書『辞書はジョイスフル』で、これを「『こらえなさけなき』と読める若者は、まず皆無だろう」と書いていると指摘されている。
 「斜に構える」は「しゃにかまえる」だが、谷沢永一は、野坂昭如について、「品が悪くて斜めに構えた短い雑文を書く専門家だった」と書いていると指摘されてしまった。
 いやいや、柳瀬や谷沢でさえ誤用している。いわんや私をや。大変大変ためになった読書だった。ときどき参照して確認しよう。


新編 日本語誤用・慣用小辞典 (講談社現代新書)

新編 日本語誤用・慣用小辞典 (講談社現代新書)