『エロマンガ・スタディーズ』を読む

 永山薫エロマンガ・スタディーズ』(ちくま文庫)を読む。エロマンガはエロ漫画だ。その歴史を分析している。著者は非常に真面目で実証的だが、対象がエロ漫画だから、内容はきわめて過激だ。図版が少なからず掲載されているが、文庫という制約もあってとても小さい。ただ大きな図版だったら、それも刺激が強すぎるかもしれない。
 はじめにエロマンガ全史が語られ、各論として「ロリコン漫画」「巨乳漫画」「妹系と近親相姦」「凌辱と調教」「愛をめぐる物語」「SMと性的マイノリティ」「ジェンダーの混乱」「浸透と拡散とその後」となっている。
 どんなに真面目で分析的か、実例を示してみる。

……ここで男性向けエロ漫画における構造の変遷を整理しておこう。


I ピープ・ショウ型:ジェンダー・ロールは固定的で、第三者的な外部の視点。
II 感情移入型A:ジェンダー・ロールは固定的で、読者の自己投影の対象は主要男性キャラクター。視点も主要男性キャラクターに誘導される。
III 感情移入型B:ジェンダー・ロールは流動的で、読者の自己投影の対象も性別、ジェンダーを問わない。


 大雑把にいって、Iは最初期のエロ漫画、IIが石井隆〜三流劇画、IIIがロリコン漫画〜美少女系エロ漫画という区分になる。これは時系列に従って並べただけで優劣を意味するものではない。時代が進むにつれて表現と読みの多様化が進むということである。つまり、III型が現在の主流というわけではなく、I〜III型の表現と読みが混在しているわけだ。

 本書は索引が充実している。なんと400人以上の名前が並んでいる。ちなみに町野変丸を引けば4箇所に挙げられていることが分かる。町野は20年以上前に村上隆がオマージュを捧げていたエロ漫画家で、おっぱいが8つもある女性のキャラクターを創造していた。
 本書は中央に登場することの決してない、まぎれもなく周縁に位置する妖しい世界をしっかり分析し整理してくれている。貴重な仕事だと思う。
 さて少々唐突だが、ここで3人の村上(龍・隆・春樹)の性格を比較すると、龍がサドで隆がヘンタイ、春樹はノーマルと言っていいのかもしれない。ノーマルと言っても凡庸という意味ではないから。