ギャラリー愚怜の古茂田杏子展がおもしろい


 東京本郷のギャラリー愚怜で古茂田杏子展が開かれている(6月11日まで)。古茂田杏子は1946年生まれ、両親とも画家で、父が古茂田守介、母が美津子、2012年に目黒区立美術館で古茂田守介+古茂田美津子展が開かれた。
 ギャラリー愚怜の月刊ニュースペーパー「ぐれい・にゅうす」に今年1月号から1年間の予定で古茂田杏子の書く「画描きん家(ち)物語」の連載が始まった。火事で焼け残った母美津子の日記が見つかり、その日記のエピソードをエッセイとして紹介している。
 昭和19年、或るアトリエで行われていたデッサンの会で、両親が出会ったところから始まる。結婚を決めた二人に美津子の父親が反対する。守介の恩師である猪熊弦一郎がとりなし、「彼は画描きの才能は持っています。成功するかどうかは分かりませんがとても良い人間です。」と父親を説得してくれた。式の日も決まったとき、守介は美津子に結婚したら絵を描くのは止めてくれないかという。美津子はそれを受け入れる。帝国ホテルで結婚式を挙げたが、その日東京へ初めての敵機の侵入があり、式の途中で空襲警報が鳴って地下の防空壕へ入ったり出たりしながらの式だった。
 戦後すぐ杏子が生まれ、彼女が13歳のときに弟が生まれる。その翌年病弱だった父が亡くなる。今回の古茂田杏子展は母の日記をもとに、そんな古茂田家の生活が墨絵で描かれている。太い輪郭線が自在に引かれ、ユーモアたっぷりの作品に仕上げられている。地色はコーヒーを何度も滲ませているという。
 作品を見ながら画家の話を聞いていたが、作品同様古茂田の語りも面白く、まるで上質の絵物語の実演を体験しているような贅沢な時間だった。

「擦る」母が父の背中を擦っている。向こうで娘(杏子)が弟のおしめを替えている

「アトリエにて」母が父のヌードモデルをしている

「剃る」母の脇毛はいつも父が剃っていた

「団欒」

「雀のお宿」

(題失念)父の臨終のとき娘が人工呼吸を行った
冒頭のDM葉書の作品の題は「くもりガラス」
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古茂田杏子展
2014年6月2日(月)〜6月11日(水)
12:00〜20:00(土曜日は18:00、最終日は17:00まで)
日曜日休み
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ギャラリー愚怜
東京都文京区本郷5-28-1
電話03-5800-0806
http://www5.ocn.ne.jp/~gray/
地下鉄丸の内線・大江戸線 本郷三丁目駅より徒歩5分
本郷通りに面し東大赤門の斜向かい