吉行淳之介全集第11巻『全恐怖対談』を読む

 『吉行淳之介全集』(新潮社)の第11巻は「全恐怖対談」と題されていて、「恐怖対談」「恐怖・恐怖対談」「恐・恐・恐怖対談」「特別恐怖対談」の4篇が収録されている。対談相手は全部で40人。12年間に渡って雑誌『別冊小説新潮』『小説新潮』に連載された。40人と書いたが北杜夫のみ2回登場していて総数39人、女性は瀬戸内寂聴1人のみ。
 吉行は対談の名手とされていて、事実そのとおりなのだけれど、娯楽雑誌の連載のせいか一般に軽い。いかにもサラリーマンが気晴らしに読むような印象を持った。一流の作家で真摯な小説と娯楽小説を書き分ける作家としては、吉行淳之介のほかにグレアム・グリーンを思い出す。グリーンの娯楽小説が、『拳銃売ります』『スタンブール特急』『密使』『恐怖省』『ハバナの男』など小説としてのレベルが高いのに、残念ながらわが吉行淳之介の娯楽小説は週刊誌や日刊紙に連載したためかやはり気晴らしの域を出ないような印象がある。
 さて、そうは言っても40回の対談、650ページを読み終わればなかなか面白いエピソードが紹介されている。

殿山泰司  ほんとにおれ、女がイヤだなあ。しかし時々、月に1回とか2回ヤリたい時があるんですよ。その時のためにね。その時も一緒にいる女とは別にヤリたくないの(笑)。他の女とヤリたい。(中略)
吉行  (……)ぼくも昔悩みましてね。こんなにスケベで人間いいものかしらって。そういう悩み、したことないですか。

 私も友人からお前はスケベだななんていわれたことがあるが、みんな悩んでいたんだ。

五味康祐  毛といえば、さる実業家からマツ毛に毛ジラミがついたという話を聞いたことがあるんだよ。
吉行  それは洒落だろう。
五味  いや、あの人が嘘をつくとは思えんからなあ。

 いえ、吉行さん、マツ毛にケジラミが寄生した症例が中外製薬が発行した衛生害虫の本に紹介されていました。子供のマツ毛の根もとにこれはケジラミの成虫でなく、卵が産みつけられていたと。

遠藤周作  この間の「サンデー毎日」の投書欄読んだか。
吉行  いや。
遠藤  58歳のジイさんが怒っとるんだ。よく「内外タイムス」なんかに出ている広告があるだろう、写真をお送りしますとか。そこに「わたしのオ×コの写真をお送りします。シワもはっきり写ってます」ちゅうて出てたので、カネを送って待っていた、バアさんにわからんように気をつけながら。なかなか来ない。やっと来たのを見たら、どっかのバアさんの皺だらけのオデコが写っとった(笑)。詐欺じゃないかって。

 これは私も似た話を読んだことがある。『週刊ぴあ』の「はみだしYOUとPIA」の欄だった。友人が、週刊誌に「わたしの恥ずかしい写真を送ります」とあるので送金したら、老婆が鼻毛を抜いている写真を送ってきた。

吉行  ぼくは芋虫が好きじゃない。
斎藤茂太  それじゃ蜂の子はいかがです。
吉行  あまりよくないです。
斎藤  あれはぼく好きなんです。いま、缶詰も出てますよ。

 市販の蜂の子の缶詰はミツバチの幼虫だという。本当の蜂の子っていうのはクロスズメバチの幼虫だ。でもこれは市販するほど採れない。まあ、「蜂の子」って表記されればギリギリ誤表記ではなく許されるのかもしれない。

森繁久彌  その男(知り合いの中国人)が「森繁さん、大きいか」ときくから「まあ普通サイズだ」と答えると「あれは大きいからいいんじゃないよ」と言うんです。「どうしてだ、もっと聞かせてくれ」と言ったら、「ここに机あるだろ」と、ちょうどきょうのこの机ぐらいの食卓をたたいて、「これ、ひっくり返す。脚、4つあるな。女、裸にする。背中痛いから真中に布団敷いて、仰向けに寝かせて、足と手を4つの脚に縛りつける。女、縛られるという気持ちだけで興奮するよ。今度は紙でできた元結を10本ぐらい束ねてキュッとこうひねると螺旋になるよ。先少し噛んでやわらかくして、それ1本通す」
吉行  膣へ通すのですか。
森繁  ええ。「ときどき回す。そうすると元結プルンプルン回る。女興奮するよ。あなたその時言えばいい。太いばかりがいいのじゃないよ」(笑)。「すぐふにゃふにゃになるよ。そしたら捨ててまた新しいの入れてやる。30分ぐらい遊べるよ」と言う。われわれとは感覚違いますよ。

 なるほどと思うけど、そこまでする気力も情熱もない。ただ、この話の面白さは森繁の語りの巧さにもよっているだろう。さて、男の太さっていうのは何かと話題になり、また気になるものだ。10歳くらいの小学生の頃、幼馴染みの稔君や寛ちゃが見せてくれたことがあった。2人ともすでに皮が剥けていて、大きかった。私はショックでとても見せる気になれなかった(いまだに男性に見せたことはない)。55年前のそんな情景をまだありありと憶えているのは、子供心にそのことが重要だと思ったのだろう。
 本書で一番印象が強かったのは、これまた森繁久彌の語る中国の纏足の花嫁の話だが、それはまた後日。


吉行淳之介全集〈第11巻〉全「恐怖対談」

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恐怖対談 (新潮文庫 よ 4-10)

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恐怖・恐怖対談 (新潮文庫)

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恐・恐・恐怖対談 (新潮文庫)

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特別恐怖対談 (新潮文庫)

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