無人島プロダクションの風間サチコ プチ回顧展「プチブル」がすばらしい

 東京江東区無人島プロダクションで風間サチコ プチ回顧展「プチブル」が開かれている(1月19日まで)。風間は1972年東京生まれ、1996年武蔵野美術学園版画研究科を修了している。1998年にギャラリー山口で初個展、その後、ギャラリー手、マキイマサルファインアーツなどで個展を開いているが、最近は無人島プロダクションでの発表が中心になっている。昨年は森美術館の「六本木クロッシング−アウト・オブ・ダウト」にも参加している。今回の個展について、無人島プロダクションのHPに次のように書かれている。長いが重要なことが書かれているので省かずに引用する。

風間サチコは木版画を表現に用いる東京在住の美術作家であり、浮世絵からマンガに至る日本の民衆的なプリント文化の長い伝統を度々思わせる独自のスタイルで知られています。版画は本来は複製の手段であるという考えに反して、風間はひとつの作品につき一枚しか制作を行いません。風間にとって木版画という技法は、自身と対象の間に距離を置き、激しい感情と静かな観察を同時に作品のなかに実現するための手段となっています。
風間の作品はあるときはコミカルで遊び心に満ち、またあるときは繊細で美しいものですが、さらに深く立ち入っていくことで、風間のすべての作品には現代社会への真剣な省察と権力の変わらぬ本質への辛辣な批判が込められていることがわかります。風間は歴史への注意深い調査を行い、過去と現在を重ね合わせ、あたかも迫り来る暗黒の未来を私たちに警告するかのような、ほとんどばかげているような空想の場面を創り出します。版画において白と黒が反転するように、風間は真実から嘘を抉り出し、嘘から真実を描き出すのです。
プチブル」展は1998年の初個展から2003年までの初期作品を展示し、最初期より一貫している風間の作家としての核を示します。この時期の風間は世界でもっとも物質的に豊かであるはずの「日本・中流階級」に着目し、成長神話、消費と植民地主義、自然の商品化などの様々な主題を意識的に探訪しながら、今日では世界的な関心となっている後期資本主義社会とその望まざる帰結の本質を作品へと昇華しています。また、経済ナショナリズムが再び台頭しつつある今日の日本社会は、そうした根本的な問題が今も続いていること、そして風間の作品の今日における重要性を裏付けるもののひとつでしょう。

 最近の版画家たちがほとんど造形の追求以外興味を持たないような風潮の中で、風間は終始一貫して歴史的・社会的なテーマに強くこだわって作品を制作している。しかもその作品がテーマ偏重の硬直したものではなく、造形的にも優れた内容を示している。木版画を制作の中心としながらもステンシルなど多様な技法を試みてもいる。





 1999年に作られた「逆算の風景」と題する棒グラフの作品には、風間によって次のようなテキストが付されている。

資本主義の輝かしい未来を約束するプロパガンダには右肩上がりのグラフというモチーフが常に散りばめられている。住宅ローンのマンションの広告に偶然現れた右肩上がりのイメージは、成長神話という約束された未来から逆算された視点からの風景を映し出す。

 現代の美術を造形一辺倒の審美主義に陥らせないために、風間の存在はとても貴重だ。ゴヤベン・シャーンやケーテ・コルヴィッツを引くまでもなく、社会批判は美術の大きな分野の一つなのだ。風間がいなければ私たちはそのことを忘れるのではないかと危惧してしまう。
 個展の会期がもう1日しか残っていないのがとても残念だ。もし今回見られなくても、風間サチコの名前を記憶に留めてほしい。次回の個展を見逃さないために。
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風間サチコ プチ回顧展「プチブル
2014年1月9日(木)−1月19日(日)
12:00−20:00(月−金)、11:00−19:00(土・日・祝)
会期中無休
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無人島プロダクション
東京都江東区三好2-12-6
電話03-6458-8225
http://www.mujin-to.com
地下鉄半蔵門線清澄白河駅」B2出口より徒歩2分
都営大江戸線清澄白河駅」A3出口より徒歩4分
(深川江戸資料館近く)