青木薫『宇宙はなぜこのような宇宙なのか』(講談社現代新書)を読む。副題が「人間原理と宇宙論」、つまり人間原理を語った本だ。人間原理の主張については「まえがき」に、次のように書かれている。
宇宙がなぜこのような宇宙であるのかを理解するためには、われわれ人類が現に存在しているという事実を考慮に入れなければならない。
Wikipediaではもう少し踏みこんで書かれている。
人間原理(英:Anthropic principle)とは、物理学、特に宇宙論において、宇宙の構造の理由を人間の存在に求める考え方。「宇宙が人間に適しているのは、そうでなければ人間は宇宙を観測し得ないから」という論理を用いる。(中略)
自然法則とその中に現れる物理定数が今知られているものよりわずかでも違えば、人間のような生命、それを構成している原子、また太陽のような恒星、こうしたものが安定して存在することはできなかった。つまり現在のような宇宙の姿はありえなかった。それにもかかわらず、自然法則やその中に含まれる物理定数は、人間のような高度な生命を生み出すのにちょうど適した構造になっている。このことはファイン・チューニングと呼ばれる。人間原理は、このファインチューニングという現象に対する説明を与える議論である。
人間の存在を宇宙の生成の根本に置くなどという極端に人間中心主義の話はスタニスワフ・レムならずとも噴飯ものだろう。それを真面目な科学ジャーナリストがどのように書くのか。眉に唾をつけながら読んでみた。
本書の半分くらいは宇宙論の歴史にあてられている。よく整理されていてとても勉強になった。知っているつもりが知らないことばかりだった。
そして「第4章 宇宙はわれわれの宇宙だけではない」から核心に入っていく。ビッグバンが語られ、ビッグバンの前にインフレーション期があったことがつづられる。
今日では、「インフレーション+ビッグバン」モデルは、さまざまな実験や観測に支持された信憑性の高いモデルであることがわかっており、「インフレーション+ビッグバン」モデルのことを、「宇宙論の標準モデル」と呼ぶこともある。(中略)
その「宇宙論の標準モデル」から、「宇宙はわれわれの宇宙だけではない」というヴィジョン−−多宇宙ヴィジョン−−が、ごく自然に出てきたのである。
こうしてインフレーション・モデルから多宇宙ヴィジョンが自然に出てきたということが、人間原理にとっては大きな転換点になった。(中略)
宇宙がたくさんあるのなら、人間原理の意味は反転する−−それは人間中心主義の目的論から、人間による観測選択効果となるのである。
この観測選択効果について、Wikipediaによれば、
観測選択効果(observation selection effects)とは、科学哲学の世界で使われる言葉で、何らかの現象の観察が行われる際に、観察者の性質や能力によって、観測される対象の層に偏りが生まれてしまう現象のことを言う。例えば地震の強さと回数についてのデータを取る場合、計測器の精度が悪ければ微弱な地震は少なく見積もられ、逆に強い地震の占める割合は相対的に大きく見積もられてしまう。人間原理について議論するさいによく参照される概念。
眉唾だった人間原理が、多宇宙ヴィジョンという考え方を採用すれば、荒唐無稽ではなくなった。その多宇宙ヴィジョンは、超ひも理論などにより、これまた可能性を無視できない仮説となっている。
少々難しい本だったが、楽しい読書だった。
宇宙はなぜこのような宇宙なのか――人間原理と宇宙論 (講談社現代新書)
- 作者: 青木薫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/07/18
- メディア: 新書
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