コバヤシ画廊の飯嶋桃代展が興味深い


 東京銀座のコバヤシ画廊で飯嶋桃代展「fomat-B」が開かれている(11月2日まで)。飯嶋は1982年、神奈川県生まれ。2006年に女子美術大学美術学科立体アート専攻を卒業。2008年に同大学大学院修士課程美術専攻立体芸術研究領域を修了し、2011年に同大学大学院博士後期課程美術専攻立体芸術研究分野を修了している。
 2006年に銀座のpepper's galleryで初個展、以後ギャルリー東京ユマニテ、銀座gallery女子美、マキイマサルファインアーツなどで個展を開いている。今年の7月にもギャルリー東京ユマニテで個展をしていて、それはブログに紹介したのだった。pepper's galleryの初個展を見たが、地面に掘った家型の穴に石膏だったかを流し込んだ立体を展示していて、とてもおもしろかったのを憶えている。
 7月のユマニテの個展では10枚の布を周囲の壁一面に張り巡らし、そこに無数ともいえるボタンを縫いつけて、2枚の布を合わせて人型を作っていた。今回は以前女子美ギャラリーで展示したのと同じに、毛皮のコートをフェイクファーに作り替えた作品を展示している。画廊には3つのものが展示されている。切り取られ穴の開いた毛皮の敷物を重ね合わせたような物体。壁に写し出されている毛皮のコートの映像。もう一つの壁には実物のコートが吊り下げられている。


毛皮がフェイクファーに置き換わる映像

完成したコート
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 作家に説明を聞いた。本物の毛皮のコートを解体し、複数のパターン(パーツ)に還元する(解体する)。このようにして得られたパーツを、長方形のフェイクファー(人工の毛皮)の上に配置する。配置されたパーツ(パターン)に沿って、フェイクファーを切り抜き、そこに本物の毛皮を埋め込むように縫いつける。これを180度回転させて上下を逆転する。逆転したシートから、最初の−−逆転する前の−−パターンの配置に従ってパーツを切り出し、コートに仕立てる。これによって、各パーツに本物の毛皮とフェイクファーが混在することになる。色彩、毛足、柄の異なるフェイクファーを順次もちいて、この過程を繰り返し、もとのコートの毛皮がすべてフェイクファーに置き換わったところで作業を終了する。
 作家に説明を聞き、こうして書き記していながら、実はよく分からない。分からないのは作業の工程に関することで、展示そのものは明快なのだ。本物の毛皮を決めた手順によってフェイクファーに置き換えていく。作業は31工程に達し、フェイクファーも31枚を使用した。映像は本物の毛皮がフェイクファーに置き換わる31工程を1枚ずつ撮影し、それを連続して写し出している。完成したコートは毛皮のコートに見えるが、すべてフェイクファーでできている。切り抜かれた長方形のフェイクファーに、置き換えた毛皮のパーツが縫い込まれ、穴の開いた敷物みたいなのがこれも31枚重ねて置かれている。3つの「もの」の内容はこのようなものだった。
 毛皮のように見えるコートは、複雑な作業によってすべてフェイクファーに置き換えられている。このフェイクファーは毛皮のコートのフェイク、偽物、だが痕跡でもある記憶、広い意味の歴史、過程としての歴史でもある。それにしても、こんなにも膨大な手数をかけてオリジナルからフェイクを作りあげた飯嶋の本当の意図は何なのだろう。どんなに深く重い核を抱えているのだろう。
 作家のテキストには次のように書かれている。

逃げるように追いかけつづける〈記憶 - 過去〉と〈自己 - 現在〉の鬼ごっこ、あるいは影踏み。

 飯嶋は「影踏み」と書いている。すると、やはり不思議な立体を作り続けている窪田美樹も作品に同じ言葉を使っていたことを思い出す。窪田は古い家具を素材にして、その来歴を残しつつ立体作品に加工していた。「影踏み」の言葉を核にして、〈記憶 - 過去〉を作品化している2人の小さな共通性に気づいたのだった。


ギャルリー東京ユマニテの飯嶋桃代展が興味深い(2013年7月30日)

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飯嶋桃代展「fomat-B」
2013年10月28日(月)−11月2日(土)
11:30−19:00(最終日17:00まで)
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コバヤシ画廊
東京都中央区銀座3-8-12 ヤマトビルB1F
電話03-3561-0515
http://www.gallerykobayashi.jp/