吉田秀和『名曲のたのしみ、吉田秀和 第1巻』(学研)を読む。副題が「ピアニストききくらべ」、これはNHKFMで42年近く続いた放送から、吉田による語りの部分をほぼそのまま活字に起こしたもの。主に、毎月月末に放送していた「私の試聴室」から選んでいる。第1巻はピアニストをまとめたもの。「巨匠たちの思い出」「ロシア(ソ連)のピアニスト」「ドビュッシーをひいた名人たち」「ミケランジェリとグルダ」「グールドとアルゲリッチ」「10人の代表的名盤」「吉田が語る日本人ピアニスト」「ピアニストききくらべ」「若い世代への期待」の9章からなっている。
この番組を毎週日曜日に10年以上聴いていた。ちょっと訥々としたところのあるしゃべりで、今でもその声ははっきりと記憶に残っている。声は肉体に準ずるのではないか。記憶が鮮明なのだ。CDが附録に付いている。吉田の語りだけを収録している。懐かしい。
吉田の語りの一部を引いてみる。短いものを。「リヒテルのショパンとリスト」から、
次は、フランツ・リスト、彼の書いた唯一のピアノ・ソナタ、ロ短調、これをききましょう。これはリストが書いた唯一のピアノ・ソナタというだけじゃなくて、リストが自分の持っている作曲の技法について、全てを尽くして書いた音楽といってもいいんじゃないでしょうか。リヒテルみたいな人がこれをひくと、曲の大きさに応じて、彼もピアニストとしての、なんていうんですか、器量の大きさっていうのかしら、容積がすごく大きいピアニストだっていうことがよく分かる。いつか僕は、いろんな人のリストのピアノ・コンチェルトのCDをききましたけど、やっぱりリヒテルがいちばんおもしろかった。このピアノ・ソナタについても、いろんな人の演奏があるわけだけども、ききくらべて帰ってくるところは、やっぱりこの人ですね、僕には。じゃ、リストの「ピアノ・ソナタ ロ短調」。
曲についての簡単な解説とピアニストの演奏の特徴を教えてくれる。放送ではこの後実際の演奏が流れるのだが、本書は語りだけ。放送時間は1時間だったし、演奏時間も短くないので、語りの部分はそんなに長くはなかった。吉田もまさか、これが本としてまとめて出版されるなどと思ってはいなかったろう。解説としては不充分と思っていたはずだ。演奏を外して語りだけで本にするのだったら、中途半端なのは事実だろう。
だが、ファンとしては本書の発行は嬉しい。こんな形でまた吉田の謦咳に接することができるのだから。本書の編集はファンたちから集められた録音テープなどを編集して作られたという。放送をエアチェックしていた熱心なファンが大勢いたのだ!
- 作者: 吉田秀和,西川彰一
- 出版社/メーカー: 学研プラス 児童・幼児事業部 音楽事業室
- 発売日: 2013/05/28
- メディア: 単行本
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