淀川長治『究極の映画ベスト100』を読んで

 淀川長治『究極の映画ベスト100』(河出文庫)を読む。本書の初版は2003年、淀川は1998年に亡くなっている。「はじめに」を読むと、『淀川長治映画ベスト1000』(河出書房新社)の中から、岡田喜一郎が100本を選んで編集したものだった。
 右ページに写真とスタッフとキャストの基本的データ、それに粗筋。左ページに淀川の簡単な解説という構成になっている。解説がたった1ページ、600字しかないと多少見くびっていたら、とんでもない。そんな短い字数で勘所はきちんと押さえていた。
 淀川の選んだ1000本の映画の中から、岡田が「淀川好み」「淀川らしい見方」「淀川が好きな監督」「淀川しか知らない話」という基準で選んだ100本が並んでいる。どれも見てみたい作品ばかりだ。読み終わって我ながら驚いたのは、ほとんどの映画を知っていて、大半を見てないことだった。私は映画に関して究極の耳年増なのだ。
 見たことのある映画は、「イントレランス」「黄金狂時代」「メトロポリス」「街の灯」「駅馬車」「市民ケーン」「第三の男」「ライムライト」「七人の侍」「エデンの東」「死刑台のエレベーター」「太陽がいっぱい」「鳥」「コレクター」「2001年宇宙の旅」「ゴッドファーザー」「アマデウス」「グッドモーニング・バビロン」「霧の中の風景」「ニュー・シネマ・パラダイス」の20本だけ。まあ、これからDVDだかブルーレイ・ディスクを借りて見ることにしよう。
 短い解説だが、ホモに関する記載が多いことに気がついた。

 イヴ・モンタンのマリオは、医者くずれで人間のクズ的な存在です。酒場の白痴のような娘に愛されている。でも、マリオは太っちょの大工ルイジ(フォルコ・ルリ)からも惚れられている。相棒というよりは稚児さん的で、自分のものは何でも与えちゃうのね。つまり、ホモ・セクシュアルだ。(アンリ・クルーゾー『恐怖の報酬』)

 一般の人はただのスリラーと思うでしょうが、違うの。もっと怖い。ホモセクシュルの映画ですよ。私はおませだから、いっぺんに見抜いちゃいました。(ルネ・クレマン太陽がいっぱい』)

 皆さんは映画を見終わって、ロレンスがどんな人間なのか、お考えになりましたか。/ハイ。実はロレンスはホモセクシャルなんですよ。(デヴィッド・リーンアラビアのロレンス』)

男と男の友情を、たった1本のマッチの火で表現しました。このファーストシーンで、この映画の命を見せました。よく見ていると、この二人にはホモの匂いを感じますね。二人の俳優はそれを巧く出していましたね。(ジェリー・シャッツバーグスケアクロウ』)

 これは京劇の女形と男優のホモ物語。ストーリーは絢爛たる虹色ですね。(チェン・カイコーさらば、わが愛/覇王別姫』)

 『恐怖の報酬』も『太陽がいっぱい』も『アラビアのロレンス』も『スケアクロウ』も『さらば、わが愛/覇王別姫』も皆ホモの映画だったんだ!
 さて、映画のベスト本なら、淀川の『映画ベスト1000』のほか、山田宏一の『映画果てしなきベスト・テン』(草思社)も出版された。これについては、読売新聞に紹介されていた(2013年7月13日)。

 「好きな映画ベスト10」はよくある企画だが、選者が厳選した10本というのが普通だろう。
 でも、この本には「病みつきになってしまった10本」「映画史上のトップ・テン」「もう一度見たい映画ベスト・テン」など、いくつものベスト10が手を替え品を替え、“果てしなく”登場する。〈とっておきの1000本、いや、まだある2000本…〉という帯の文句に偽りなし。さすがは、フランスの映画批評誌「カイエ・デュ・シネマ」の同人で、映画監督のゴダールトリュフォーらとも交友のあった映画評論の重鎮。見てきた本数が違う。

 淀川も山田も信頼できる映画の見巧者だ。見るべき映画がこんなにあっては、私がどんなに長生きしても見切れない。未読の蔵書も1000冊もあるし。


映画 果てしなきベストテン

映画 果てしなきベストテン