お茶の水駅近くのトーキョーワンダーサイト本郷で江川純太展と松井沙都子展が開かれている(8月25日まで)。ここは都営の施設で、若い作家たちにギャラリーを提供して、1カ月間個展をさせている。1階から3階までの会場で今回も4人の作家たちが展示を行っている。概ね1人は会期中ギャラリーで制作を続ける企画があって、今回は江川純太が会場で絵を描いている。先日、制作中の江川純太をブログに紹介した。
・トーキョーワンダーサイト本郷で江川純太展が始まった(2013年8月8日)
それから10日ほどして、また会場を訪ねてきた。最後の作品を制作していて、全8点の完成が間近だった。江川は多様な作品の展開を見せてくれる。バックを斜めのストライプにしたり、崩した円形の中に図を描いたり、モノクロームだったり、多彩な色彩を使ったりしている。おそらく感覚で描いているのではなく、したたかな計算をしているに違いない。
今まで何度か江川の作品を神楽坂のギャラリーeitoeikoで見てきた。東京ワンダーサイト本郷のような広いギャラリーで展示する機会はなかなかないだろう。大作を何点も展示できるこのスペースでの展示を、作家とともにわれわれ観客も楽しみたい。
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さて、同じ建物の3階のギャラリーでは松井沙都子の個展「Blind Place」が開かれている(8月25日まで)。松井は1981年大阪府生まれ、2004年に京都市立芸術大学美術学部油画専攻を卒業し、2006年に同大学大学院絵画専攻油画を修了している。2007年に大坂で初個展、その後も京都、大坂、神戸など関西を中心に活躍している。東京では2010年と2011年にneutron tokyoで個展を開いているというが、私は今回初めて見た。
松井の作品は奇妙で不思議なものだ。これらは一体なんだろう。
(最後の写真は作品の一部)
松井のホームページの<アーティストステイトメント>から引用する。
私の作品は、複数のモチーフを組み合わせて作った絵画である。//私は、直接的に「描く」という行為から距離を置いて制作している。//なぜなら、私は、自身の世界観を具体的に物語りたいとは考えていないためである。/むしろ、モチーフやその組合せ、あるいは連続する作品によって、何も具体的に見えてこない、/不安定な状態を作り出したい。またこれを、具体的な要素のコラージュで成立させたい。//要素は全て寄せ集めであり、中心となる物語はない。/画面作りにおいて、図と地、手描きの線と幾何形態、フラットか質感があるか、全てにおいて、/優劣はない。/両極端な物同士がコラージュされることで、新しい世界観を構築するのではなく、/どちらにもなりきらないまま、強引に成立しているような作品が作りたいと思っている。
松井はドットがプリントされた既成の布を使う。そのプリントされたドット柄を丸く退色させる。さらにしばしばその布の周囲により粗いドット柄の布をまるで額縁のように縫い合わせる。それに粗い点描で形を描いている。松井にメールで問い合わせた。松井とのメールのやり取り。「>」の付された文章が私の質問。
> 点描的に線を描いて「図」を作っていますね。2人に見える図もありました。
> 黒いドット柄を漂白して白抜きを作り、点描的な線で図を描いている。
> それ以外の描写はされていないように見えますが。
既成の生地を白抜きした後、点描で形を描写します。/描いているのは、生き物に布がかけられたような有機的な形です。/四つ足の動物のように描くこともあれば、人間のポーズをイメージして描くこともあります。/中身が何かを厳密に決めているわけではないので、私自身にとっても中間的な形です。/見る方によって印象が違うようで、山ですか? と聞かれたりします。
> 木枠に張っていますが、少しそれが透けて見えます。
私にとって絵画作品とは、「壁にかけられた構造物」であることがとても重要です。/そのため、描かれた布の形を見せながら、木枠に布が張られているのだ、ということが同時に認識できるような作りにしています。
きわめて知的に構成している。何と興味深い作家なのだろう。絵画に対して描写に重点をおかないで制作している。このような試みからこそ新しい流れが生まれるのではないだろうか。今後の展開が楽しみな作家だ。
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江川純太展「あなたは見ている。僕は何処か遠くのことを考えていた。」
松井沙都子展「Blind Place」
2013年8月3日(土)−8月25日(日)
11:00−19:00(月曜日休館)
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トーキョーワンダーサイト本郷
東京都文京区本郷2-4-16
電話03-5689-5331
http://www.tokyo-ws.org
お茶の水駅、水道橋駅、本郷三丁目駅からそれぞれ徒歩7分